第3話 退会費はあなたの命です

「あんた何者だ?」


 つい口をついて出てしまった。これでは敵意が丸出しではないか。ところが、阿羅亜は、微笑ましく唇を振るわせた。


「直感が鋭いお方のようだ。私はここを経営している者です。と言っても信じてくれないような目をしてらっしゃいますね」



 俺としたことが、言葉が続かない。男の威容に白い目が俺を見据えている。白内障でもあそこまで酷くはならない。曇っているのではなく、輝かしいばかりに白い瞳が俺の目を貫き、脳裏へと刻み込む。痛くて見ていられなくなった。一体何なんだ!


「な、何をした?」



 阿羅亜はときどき、耳のピアスを撫で回しては天使のごとく微笑んでいる。


「いえ、何も。彼の存在のせいでしょう。安心を、彼は何もしません」


 一体誰の話をしているのか分からない。頭痛もしてきた。


「あ、まだ私が何者かちゃんと答えていませんでしたね。私は簡単に言いますと、崇拝者です」



 畜生。やはり宗教絡みか。どうりで、変な名前に変な格好なわけだ。


「変なクラブ作りやがって、俺は帰るぞ」


 足元がかすんでいる。でも、今逃げ出さなければいつ逃げ出す? 俺の背に阿羅亜の不気味な笑い声が吹きかかった。



「神を信じますか?」


「生憎信じてない」


 鍵は外からかけられていた。鉄の扉に鉄の鍵ではどうしようもない。


「私の名前はイスラムの太陽神から取ったのですよ。まさに、彼は私にとっての太陽のようなものだったので」



 聞いてもいないことを阿羅亜が説明して、右手の袖から何や危ない刃物を取り出した。折りたたまれていたそれは、手早く組み立てられ、巨大な鎌になった。銃刀法違反だ! 人に向けるなんていかれている。



「先に契約内容を確認しておきましょう。死神クラブの入会費はゼロ円。活動内容は、年に一度は友人など知り合いでも、赤の他人でも紹介していただくこと。そうすれば報酬として多額の金が手に入ります。注意事項としては、身の回りで不可解な出来事が起きても気にしないこと。それから、大事なことですが、退会費はあなたの命です。どうです? 今なら入会させてあげます」



 死んでもお断りだ。退会費が聞き間違えでなければ常識じゃなかった。くそ、ドアは体当たりしても開かない。


「誰か! ここを開けてくれ!」


 扉を何度も叩いたが、自分の拳が赤く腫れ上がるだけ。こんなところで死ぬなんてまっぴらだ。

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