第2話 紹介させてよ
「じゃあ、入会はしなくていいから。私がレン君を紹介させてよ」
「そのまま入会させられるに決まってるだろ!」
「そんなこと言わないでさ。じゃあ結婚してくれる?」
何でそうなる! 告白魔とは知っていたが、まさか結婚を軽く口にするとは。相当思考がませているのか、それとも幼いのか。
しぶしぶ俺は連れて行かれた。見るだけだ。もし勧誘されたら腕っぷしの強さでも見せつけて立ち去ろう。
建物は薄暗いビルの地下だった。エレベーターは地上止まりなので、蛍光灯の消えかかった螺旋階段を降りて、目的のオフィスに入った。何だか拍子抜けするほど殺風景だ。扉は自動でもなく、中の灯りは弱々しい。ノックもせずに入ると、入室を知らせるのはドアについていた風鈴。受付には誰もいなくて、照明は黄ばんでいる。
ミキがか細い声で誰かいないか呼びかけた。
「これはこれは、井上さん」
偉く上品な声がして、奥の黒いカーテンの向こうから随分派手な男がやってきた。髪の色は赤く染められ、耳にはピアス、それに似合わず服装はお坊さんに似て足元まで隠れた緑の衣だ。
「あの、友達を紹介しに来ました」
ミキがあんまり素直に笑顔で答えるので俺は面食らってしまった。昔、不良にいじめられて泣いていたくらいのミキが、穏やかな話し方とはいえ懐いているとは。
「ありがとうございます。ミキさんはこちらでお待ちを。そこのあなた、お名前を聞いてもよろしいですか?」
俺はたじろぎながら答えた。
「国本レンです」
男は軽く頷いてきびすを返した。
「こちらへ」
ミキと離れ離れになりはじめて不安に襲われた。丁寧な口調でなければ見るからに不良だ。どこかいびつな釣りあいのスタイルだが、このカーテンの奥につれていかれると、豹変するかもしれない。男が複数で襲ってこられたら、たまったものではない。こんなことなら、何がなんでもミキを振り切ってこればよかった。
奥は、意外と近代的だった。そのギャップに俺は立ち往生してしまった。背後で厳重な鋼鉄の扉が自動で閉まった。これほどの設備があるのに、入り口の手入れは怠っているのだろうか? 蛍光灯は昼間よりも明るく照りつける。机と椅子が用意してあったが、どう見ても、歯医者で使うような背もたれが異様に長いベッド状の椅子だ。
「こちらに」
男が指示したのを俺は断った。立っておかないといつでも逃げられない。
「自己紹介が遅れました。私、阿羅亜と申します」
最近の若いカップルは奇妙な名前を考え出すものだ。なんて一瞬考えたが、偽名かもしれないと思いなおした。
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