第4話 入会費だけだろ
「レン君ごめんなさい!」
ミキの泣き叫ぶ声がして扉が開いた。途端に、ミキを連れ俺は飛び出した。あと一歩遅ければ阿羅亜の鎌が、背中を突き刺すところだ。
建物を飛び出ても俺達は振り返ることなく走った。ミキはずっと泣きじゃくっている。ひとまず、人通りの多い場所に出れば安心だ。
ミキが泣きじゃくるので、人々の視線が集中した。俺も混乱してどうしたらいいのか分からなくなっている。とにかく落ち着こう。
「大丈夫だ。泣くな」
「だって、私のせいで。私のせいで。みんな死ぬんだよ。阿羅亜さんたちがまさか死神の崇拝者だったなんて」
言っている意味が分からない。いや、阿羅亜以外にも誰かいたのか?
「どういうことだ?」
ミキは余計に声を荒げて泣き喚いた。
「私たちの後に、入ってきた子がいたの。でも、その子、退会を申し出たとたんに、奥の部屋に連れていかれて。出てこなくなったの。それから、代わりに出て来たのが、死武唖さんっていう女の人なんだけど、靴に血がたくさんついてた。退会したら命を頂くなんて、最初冗談で阿羅亜さん言ってたから信じてなかったんだけど、まさか本当に殺されちゃうなんて!」
「馬鹿、声がでかい。と、とにかく警察に行くぞ」
やっと警察の存在を思いついた俺は、警察に報告しにいった。ところが、警察は取り合ってくれなかった。実際に殺された瞬間を見たわけではないし、そもそもあのビルは存在していないとのことだった。
今日は手持ち無沙汰な感じで家に帰った。もう一度死神クラブの場所に足を運んで確認してみたかったが、阿羅亜がうろついていると思われてならなくて、仕方なく家で過ごした。父に話してみたが、酔っ払っていて取り合ってくれなかった。
仕方なく次の日、ミキと二人で死神クラブの存在を確かめに行くことになった。
じわじわとビルが近づくにつれ、身の毛がよだつ。ビルが存在していてほしいような、存在していてほしくないような嫌な寒気がする。
ビルは存在していた。何だ、はったりかと思ったと同時に中に入るのを躊躇ってしまう。警察がいてくれたら心強いのだが。
「やっぱり帰ろうよ。生きてただけでもさ、もういいじゃん」
ミキが弱気なことを言う。心の中では俺もそう思っていた。だけど、このまま放っておいたら、次なる犠牲者が出る。後ろ髪を引かれる思いで地下への階段を降りていくと、ふと、黒い影が足元に伸びてきた。人間の形をしたそれは、一瞬揺らめいて大きな怪物の姿になった。
「やあ、レン君」
後ろから軽快な声がした。阿羅亜だ。見間違いだったのだろうか、影は阿羅亜の輪郭と寸分の狂いもない。それより、まずいことになった。入り口からも白い布を頭から被ったような人たちがぞろぞろと、手に斧やらナイフやらを持って現われた。これでは挟み討ちだ。
「入会費はただだよ」
「入会費だけだろ」
阿羅亜は、物静かに噛み殺したような笑い声を立てた。
「君は神を信じていないようですね」
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