第31話
平文くんとわたしは、ナイトレインボーの下にすわっている。空を眺めながらぬいぐるみのプルートを膝にのせてなでている。
平文くんがひねりだしたロマンチックなキスは、ハワイでナイトレインボーを見ながらというものだった。わたしたちは休みをあわせて本当にハワイにやってきたのだ。太平洋に浮かぶ本物のハワイ。夢でもない。
ハワイにきたからと言って、簡単にナイトレインボーが見られるわけではない。オーロラを見るのも同じらしい。オーロラが見られる場所に行っても滞在中一度も見られないことがある。ナイトレインボーは、オーロラよりも見るのが難しい。普通の虹だって見られる機会が少ないのに、月は太陽とちがって満ち欠けするのだ。なのに、わたしたちの目の前には、ナイトレインボーが出現している。ほぼ満月がのぼる時刻、平文くんがネットでリアルタイムの雨雲を調べながら、レンタカーを走らせてくれたのだ。その辺は理系の人にまかせておけば、わたしは安心だ。見られなかったらキスもお預けなのだから、平文くんは必死にもなるというものだ。
幻想的なナイトレインボー。感謝の念が湧く。平文くん、安藤くん、ありがとう。ハーデースも。安藤くんとハーデースも、そばに一緒にいるように感じる。
「本当に見られちゃいましたね」
「ありがとう」
レンタカーを道端に停め、道の横の草地にレジャーシートを敷いてすわっている。
「それじゃあ、キス、していいですか?」
「それは間違ってる。キスはさせてあげたり、してもらったりするものじゃないんだよ。こうやって、ふたりでするものでしょ?」
となりにすわっている平文くんの首に腕をからめて、体重をあずけるようにキスした。わたしたちのはじめてのキス。安藤くんとハーデースは距離をおいて顔を背けている。
「キスのために、すっごい大げさだったね」
「感動もひとしおです」
「そういえばさ、いつまで丁寧語なの?わたしはずっと普通にしゃべってるのに」
「歳上の女性じゃないですか」
「恋人どうしは年齢関係ないんだよ?」
ロックコンサートのあとの告白から、わたしは恋人どうしのつもり。
「恋人。食べたら甘そうな」
「試してみる?」
もう一度キス。
「うん、甘くはないですね」
「そこは甘いっていうものだよ」
「最高に甘かったです」
「遅い」
本当に。理系の子ってみんなこうなの?
「平文くんはいいんですか?」
「下の名前なんだっけ」
「幸です」
「コウ?」
「幸せって字ですよ」
「おー、あやかりたい」
「ふたりで幸せになれますよ」
「それプロポーズ?」
「おれはいつでも準備オッケーですよ?」
「じゃあ、ロマンチックなプロポーズを考えようか」
「またですかー?こんどは月でとかいわないでくださいよ?死ぬまでいけなさそうです」
「いいじゃない、月。月にしちゃう?」
「勘弁して」
「あ、丁寧じゃなくなった」
「いえ丁寧です」
「ちぇっ。幸のバカ」
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