和風な「物の感じ方・考え方」(枕詞編)


 引き続き、「物の感じ方・考え方」。今回は枕詞を中心に見ていきます。枕詞とは、和歌において特定の語を導き出すようにして使われるものです。詳しくは調べてみてくださいね。詳しい意味と枕詞総覧(追記中)はこちら

https://kakuyomu.jp/works/1177354055543539088/episodes/1177354055587246814

さてなぜ枕詞かといいますと、枕詞には現在では意味が予測不可能なものがあるのです。それは枕詞が太古の日本思想を表していることを示します。このたった四、五文字も、和風な「物の感じ方・考え方」を含んでいるというわけです。


〈あしびきの〉

 「山」にかかります。この枕詞は、実をいうとのっけから意味不明です。私はこの語は山を行くことの険しさ、過酷さだと理解して、「足でいくことが引かれる」(遠慮される)あるいは「足を引きずってでも歩く」くらいだと感じています。旅の過酷さが伝わります。自然人間型でしょう。


〈あまのはら〉

 「富士」そして「ふりさけみる」にかかります。まずだいたいにして、天の原とは大空のことです。天には高天原が存在する、そんな信仰が見て取れます。そして富士は最も高い山ですから、その天の原に最も近いということで詠まれたのでしょうか。次に「ふりさけみる」ですが、これは首を振り上げて、遠くを見渡すという程度の意味です。天の原を見るには、それくらいしないと見渡せないということですね。それほど広大であるという、これまた信仰的な面が見えてきます。信仰型。


〈あまづたう〉

 「日」にかかります。太陽が天、空を行くということですね。これは単純です。自然型。


〈あらたまの〉

 「年」や「春」にかかります。新玉(新しい命)、また改まるということでしょう。年は改まって新年になりますし、季節が改まると「春」となるということです。前項でもお話ししましたが、春はめぐる命が張る季節。その命が新玉であったわけです。旧暦の春は1~3月ですから、まさに新しいというわけです。自然信仰型。


〈かみかぜや〉

 「伊勢」など、神にかかわる言葉にかかります。神風は神によって吹く強い風のことですから、もしかしたら古代人は、神を風によって感知していたのかもしれません。風だけではないにせよ、突風がひとつの神の要素であったことに変わりありません。信仰型。


〈とりがなく〉

 「あずま」にかかります。とりというのは言うまでもなく「鶏」です。日は、東から登りますから、それに合わせて鶏が鳴くということでしょうか。自然型。


〈たかてらす〉

 「日」あるいは「日の皇子」にかかります。空からこの世界を惜しみなく照らすということですね。自然としての日から、日の皇子という信仰的な面にもつながります。自然信仰型。


〈たまきわる〉

 「命」などにかかります。玉というのはやはり魂のことで、これが極まる、あるいは切れて終わるということで、途方もない長い時間と、一つの命の終わりが感じられます。信仰人間型。


〈たらちねの〉

 「母」にかかります。たらちねは「垂乳根」と当て字され、乳が垂れたと解釈されることが多いものですが、実際は足ら霊根であり、霊威の満ちた、不思議な力の根源というような意味だと私は考えています。どんな人でも女、母から生まれてきます。それは神の技に近く、信仰の対象だったのでしょう。信仰型。



 以上、枕詞でした。古代日本人は、とりわけ自然を大切にし、共生してきたということがわかりますね。そしてまた、ただ自然とともに暮らすだけではなく、その過程で神やち・ひという信仰を獲得して、それを歌に詠みこんだということもわかります。

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