第13話 霧多布岬
「やっとついた!」
霧多布岬にいくための
今別町から約半日、すでに日は西の空に傾きかけていた。
「やべぇ、宿見つけなきゃ」
観光地とはいえ、北海道の中では小さな町だったので大きなホテルや旅館はなさそうだった。
とりあえず駅に向かい霧多布岬の近くの宿を紹介してもらった。
その宿までは浜中駅からバスを利用して役場前というバス停まで行き、そこから徒歩で五分くらいのところにあった。
とてもこじんまりとした小さな宿だった。
「いらっしゃいませ。ご予約ですか?」
「あ、先ほど駅の案内所で紹介を受けた者ですが」
「あーはいはい、高校生の方ね。お待ちしてました。どちらからですか?」
「あ、えっと東京です」
「あら、東京から?高校生なのに一人旅ですか?えらいですね」
「あ、えらくはないです」
「そうですか、確かにイマドキは高校生が夏休みに一人旅をするのは珍しくはないですけど、でも、ふつう、もっと大きな観光地に行くのにどうして、こんな
「あ、えっと霧多布岬、そこに行きたくて」
「それが目的で?」
「はい。そうなんです。ここに来たくて」
「変わってますね。あ、ごめんなさい。ここは岬の眺めは確かにきれいですけど、名前の通り結構、霧がかかってその眺めも見られないことも多いですよ。お客様が滞在中に霧が晴れるかはわかりませんからね」
「いいんです。その、霧を見に来たんですから」
「霧を……ですか?」
「はい」
「そうですか」
少し
部屋に通された宙は、宿の窓から岬を眺めた。
女将が言っていたように、霧でほとんど岬の先の海は見られなかった。
すでに日も陰っていたため、ほとんど風景はわからなかった。
夕食を済まし、風呂に入って、疲れていたので早めに床に入ったが、やはり絵羽のことは常に頭から離れなかった。
『絵羽、おまえは本当に俺の前からいなくなってしまったのか。おまえとの出会い、一緒に過ごした四ヶ月は、いったいなんだったんだ?』
その問に誰も答えることはなく、宙自身、空しい問とわかっていた。
そうこう考えているうちに、宙は旅の疲れが出て、寝入ってしまった。
そして、夢を見た。
絵羽が、出てきて遠くの方でにっこりと微笑んでいる。
宙は必至に近づこうとするが、その距離は全く縮まらない。
だんだんと息苦しくなっていくが、どうしても絵羽に近づけない。
でも、絵羽はずっと微笑んだままこちらを見ている。
「絵羽!いくなー!」
夢の中で大声で叫んでいるのに、その声は絵羽に届いていない。
そして、今度は絵羽のほうがどんどん遠ざかっていく。
「絵羽!いかないでくれー!」
絵羽の姿が今にも消え入りそうになったとき、どこからともなく、声が聞こえた。
「きっと、また会えるよ」
その声は確かに絵羽の声だった。
「ハッ!はぁ、はぁ、夢……か」
ぐっしょりと寝汗をかいた宙は、息を荒げて眼を覚ました。
時計は午前四時少し前だった。
もう一度寝ようと思ったが、強烈な夢のおかげですっかり眼が冴えてしまった宙は、着替えて散歩に出た。
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