兄妹は夜明けによりそう

 しばらくして、トウキチは転職した。役所に相談すると、資格を取ることを勧められた。アカネの助言もあって、あまり時間のかからない簡単なものを取ると、待ち構えていたように求人が現れたのだ。

 アカネは大学受験資格を早々に取得し、通学可能な範囲で最も難関の公立大学に入学した。アルバイトをいくつもかけもちながらも授業も欠かさず通っている。

 何もかもがうまく行き始めたように思えた。

 トウキチは資格を取るのに目覚め、さらにいくつか資格を取得した。職場の人間関係も、そう悪いものではなくなった。

 匿名を条件にテレビが取材にきたことがあるし、人格再構成の専門家に焦点をあてた番組では成功例として取り合えげられたこともある。ただ、どちらもコメントの内容は与えられた台本をなぞっただけだった。

 このころ、政治が変わった。

 人格再構成刑は停止された。手間と時間がかかって効率的ではないという理由だった。そのかわり、次の裁判からは犯罪をおかした者は、成年未成年なく罪状に応じて軍隊に送り込まれることになった。国境で小競り合いが何度もおきていた。

 トウキチのように刑の完了したものの経過観察は中止となり、もう彼を見張るものはなくなった。

 彼は失業を心配したが、勤務態度もよく、実績もあげてる彼がすぐ首になるようなことはなかった。

 アカネとトウキチはここで一度話し合い、アカネが卒業して就職するまでは共同生活を続けることにした。

「兄ちゃん、ありがと」

 これがアカネの今の呼び方だった。

「気にするな。いまとなっては君の独り立ちが楽しみなんだ」

 嘘偽り無くトウキチはそう思っていた。アカネには純粋な意志がある。それを応援するのは、いつのまにか彼の楽しみになっていた。

「そのときがきたら、寂しくて泣くんじゃないの?」

「そうかもなぁ。ま、そのときはときどき食事でもつきあってくれ」

 アカネはほおづえをついてトウキチの少し気弱げで、凛々しいとはいえない顔つきをしばし凝視した。

「やっぱり、兄さんと兄ちゃんは別人よねぇ」

 そういわれると、彼はいつも微妙な気分になる。接ぎ木の葉先に気持ちがあるなら、こういうものだろうかと彼は戸惑っていた。

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