軽快なステップ

@dsmfoe9

第1話

 街を走ろう。


思い立った日にはすぐに行動に移せ。


だれに言われたわけでもないけど、わたしは強く信じている。


 着替えをパパっとすませて、階段を飛び降りる。


「やけに軽快だな」


 父さんが間延びした声をかけるが無視。



 街は徐々に昼の時間が長くなっている。


 太陽は高く、しかし暑くはない。


 人はゆったりしたスピードで、森や木々は眠たそうに風にゆれた。


 見る景色が入れ替わるたび、ひとつひとつ感想をこころのなかでつづる。


 イヤフォンからEVEという青年の曲が走る。

 

 彼の声は私を高揚させてくれる。それが嬉しくてまた走る。


 自分が走ると時間の流れが遅くかんじた。


 挨拶を交わせば、胸がすっきりと気持ちが空く。


 今日はなんてことはない日だけど、どうしてやけに楽しいのだろう。


 自分は卑屈な性格でまわりに溶け込むのが超下手だけど、今日は違う。


 人の笑顔を見るたびに、わたしも嬉しくなる。


 明日は久しぶりに髪を切ろうかな。この長ったらしい黒髪も梳いてやろう。


 思わず笑みがこぼれる。


 パノラマ写真みたいに広がるわたしの視界に、捉えられないものは何もない。


 間髪入れず瞬きをしても、次の瞬間には色あざやかに景色とひとびとが映る。


 わたしは強く生きる理由を知りたくなった。


 決して負けてはいけないのだと、高ぶるこころが教えてくれる。


 やさしい彼の声は、道を示すように曲がりくねり道なりに旋律する。


 地面を蹴る。


 虚空に飛び出した私の存在が、楽しいという感情にやっと追いついた。


 楽しいんだ、今もこれからもきっと。


 強くあれ、私と未来の私。

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