第8話

前回の後半に続き勇者パーティーに新加入した暗殺者視点です。


足音はゆっくりと、しかし、確実に近づいてきている。

暗殺者の職業を持つ男はこの状況下でもなお落ち着いていた。

性格はとてもいいとは言えないが、その職業により皆に認められている男が目の前のテントにいたからだ。

暗殺者の男は急いでテントに向かった。


暗殺者「勇者様!モンスターが近づいて・・・何をなさっているのですか!?」


そこでは勇者、戦士、魔術士が裸で戯れていた。

ここで初めて焦りが生じた。

自分一人では到底手におえない敵だ。

しかし仲間はすぐには動けないし、動く気はないだろう。

そしてきっとこう言うだろう。


勇者「お前が何とかしろよ。」


予想通りだ。

これではっきりした。

彼らは今戦う気はない。

自分しか戦わない。

スキルを使って自分だけ逃げることは可能だろう。

しかし、そんなことをしたら勇者を失ったことで多くの人に恨まれ生きにくくなるだろう。

だから、下した判断は戦って華々しく散ることだった。

相手は強いとはいえモンスター。

もしかしたら、と淡い期待を抱きながら姿が見えるのを待った。


足音が近づいてくるにつれ妙な音も聞こえ始めた。

何かが飛んでいるような音だった。

そしてついに姿が見えた。

それと同時に絶望を感じた。

現れたのは地竜。

この森の中でもかなり上位に入る強さの持ち主だ。

そして妙な音の正体の翼竜。

こちらも地竜とまではいかないものの、かなり強い。

しかも2体もいる。

この圧倒的強者のオーラに気付いたのか後ろのテントが騒がしくなっている。

このモンスターは自分たちには荷が重すぎる。

勝つことよりも逃げることを優先しなければ。


暗殺者「皆さん、私が時間を稼ぎます。そのうちに逃げてください!」

勇者「お前何言ってるんだ?俺をバカにしてるのか。」


あのバカ勇者は敵の強さを理解できていないようだ。

慌てて装備を整え、俺のもとへとやってきた。

そして無謀にも戦うという決断を下したのだった。

勇者が剣をふるう。

聖属性を纏った斬撃が飛んでいく。

しかしそれは敵の鱗を切り裂くには力不足だったようで

斬撃の痕をつけるのが精一杯だった。

逆に地竜が眠そうに振るったしっぽにあたって吹き飛んでいく。

俺はもちろん見ていることしかできなかった。

そこからの判断は早かった。


勇者「撤退だ!なぜこんな強いモンスターが出てくるんだよ!」


そう言うと急いで荷物を俺に渡し、全力で走って逃げて行った。

荷物を渡すとき、魔術士の女はこう言った。

「大切な私の荷物だからね!死んでも町まで持ち帰りなさい!」

と。

俺よりも荷物のほうが大事か。

っとそんなことを考えている暇はなかった。

いつ動いてもおかしくないモンスターが目の前にいるのだ。

こいつらから逃げて荷物を持ち帰らねば。

モンスターに背を向けるのは死を意味する。

しかしそんなことになんて構っていられない。

そう考えるとモンスターにくるりと背を向け全力で走り出した。

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