第15話 早く行け!

 アスカはそれを受け取ると、小さな声でお礼を言った。

「……ありがとう」


 そして子供ながらに何かを感じ取ったのか、顔をゆがめ、涙をこらえていた。しかしこらえきれず、エドワードの肩に顔をうずめる。

 すると突然トランシーバーから宗平の焦る声が聞こえた。


『今、雪が動いた⁉』

「時間だ」

 それを聞いたエドワードは言った。

「メアリー、早く出よう」

「……そうだけど」

 私はエドワードにくるりと向きを変えられ、老人に背を向ける格好になる。

「さあ、行こう」


 エドワードに促されドアの外に出される。その時私は、部屋を出る前に後ろをちらっと振り返った。

 それを見たエドワードは何を思ったのか、ため息をつくと「……先に行け」と言う。 


「え?」

「だから」

 エドワードは私の背を押しながら続ける。


「早く出る場所探せって言ってるんだ。階段を下って一番下の階に行ってたら遅いだろう。だから、この階かその下の階の窓からフィーネトレッドを地面につなげろ。サポートは機械が適当にやるだろうから」


「ちょっと何言ってるの。冗談はやめて」

「冗談じゃない」

 そういって、エドワードは笑う。

「さっさと行けって。すぐ追いつくから」

「だけど……!」

「ほら、アスカも」


 アスカは抱っこしていたエドワードから下ろされると、涙をぐいっと拭いて私の元に来た。私はほんの数秒エドワードを見ていたが、気持ちを切り替えて声を出した。


「行くよ、アスカ!」

 私は彼の意図が読めないままだったが、「すぐ追いつくから」という言葉を信じるしかない。仕方なく彼女の手を引いて走りだした。

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