第7話 エドワードという男

 私はアスカを車から降ろすと、しっかりとダウンコートを羽織らせ、帽子に手袋、マフラーを付け、足元はブーツを履いていることを確認する。こうやって彼女が足手まといにならないように準備するのも私の役目でもある。


「メアリー。その首のあったかいの、さっきのと違うね」


 準備が終わるとアスカが聞いてきたので、私は「朝美に貸してもらった」と答えた。

「それじゃあ、メアリーさんのは?」

 宗平が準備を手伝おうとしたのかドアを開けて降りると、私たちに質問する。

「セナに貸してあげたの」

「え、なんでですか?」

「だって彼、自分のマフラーをエドワードに取られたみたいだから」


 ほら、といって私は外に出てきたエドワードを指差した。案の定彼は、ここに来る前にセナが付けていたマフラーを巻いていた。


「本当ですね」

「世話が焼けるのよ」


 宗平はため息を付くと、エドワードたちの方に背を向け、声をひそめて私に尋ねた。


「エドワードさんって、メアリーさんと同い年ですよね?」

「そうよ」

「見えませんね」

 宗平はエドワードのことを「幼い」と言いたいのだろう。その気持ちは分からないでもない。

「……そうかもね」

「むしろセナさんのほうが大人みた……うわ!」


 すると突然、宗平は装着していたニットの帽子を取られ、髪をぐるぐるとかきまわされた。見ている方が「髪が絡まりそうだな……」と心配してしまうほどの勢いである。宗平はその手から何とか離れると、いたずらの犯人を見て目をむいた。


「エドワードさん⁉」

「なんだ、宗平。俺が聞いていないところで悪口か?」

「別に悪口じゃないですよ!」


 そう言ってから、宗平は周囲の視線に気が付き声を潜める。これから作戦を開始すると言うのに、大声を出している場合ではない。……いやいや、それよりもいたずらをする方が悪いのだが。


「メアリーさんも、この人が近づいて来ることを何で教えてくれなかったんですか」

 思わぬ指摘に私は素直に謝る。

「ああ、まあ、それはごめん……」


 確かにエドワードが近づいて来るところは見えていたが、言わなくても気付くのではないかと思ったのだった。


「メアリーに謝らせるなよ。気付かなかったお前が悪い」

「いたずらしたあなたが一番悪いです」

「で、悪口言ってたのか?」

「だから悪口なんて一言も言ってませんって」

「セナの方が大人みたいとかなんとかって、言ってたじゃねえか」

「聞こえてたの?」

 私が眉を寄せて尋ねると、エドワードはにっと歯を出して笑う。

「まあね」

「だったら言わせてもらいますけど、俺は悪口を言ったんじゃなくて思ったことを述べただけです」

「俺が子供だって?」

「そうですよ」

「はははっ。面白いこと言うなぁ」

 エドワードは宗平に"子ども"であることを肯定されても、痛くも痒くもなさそうだった。

「皆親切だから世話焼いてくれるせいで、俺が子供っぽく見られるんだ。言っておくが、俺は大人だぜ?」


 灰色の空を仰いでそんなことを言っているが、何にも恰好がついていない。ただ、全身黒っぽい服をまとい、髪が金色なのは目立った。


「人のせいにしないでください」

 エドワードは彼の言葉に目を瞬くとすぐにニヤリと笑う。

「そんなに人に言うなら、お前も人のせいにするなよ?」

「はぁ? あなたと一緒にしないでください。俺は人のせいになんてしませんから」

「どうかな~?」


 宗平は納得いかないような顔をしてはいたが、さすがに騒ぎすぎである。「これから仕事なのに騒がないで」と私が口をはさむと宗平は黙ったが、エドワードを睨めつけていた。


 しかしその相手は飄々としており、私に「またあとで」と肩を二度叩くとセナとの最終確認をしに、自分たちの車へ戻っていく。

 私はため息をつき、改めて宗平に作戦の説明をする。言い合った方は、先程のやり取りをここでの会話に引きずらないようにしていたが、眉はずっとひそめたままだった。


 私はそれを終えると、現場に赴くメンバーとリーダーであるギオルグとサブリーダの椎名の元に一度集合した。

 彼らは慣れたもので、護身用の拳銃を懐やポケットに隠して準備万端だった。

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