第6話 それぞれの役割

「さて」と仕事に切り替えるために、私は二人に言った。「作戦を開始します」


 すると二人の顔が瞬時に引き締まる。さすがだな、と思った。ひかるの息子宗平と、リサの娘アスカ。あと今回一緒に乗ってきた二人の子供は、椎名の息子たちである。しかし彼女の息子たちは、私が運転していた車に乗っていたというのに、何とタフなのか。いまだに起きないし起きる様子もない。


「まあ、この子たちは寝ても、寝ていなくても置いていくつもりだからいいとして。アスカは私と一緒に行動」

「ラジャー」


 アスカは頼もしく返事する。こういう状況には慣れっこなのだ。それに加え自分が役に立つことが嬉しいようである。

「そして宗平は」


 彼は自分に訪れるチャンスを待っている顔をしていた。だが、私が言ったことは彼を失望させた。

「残って頂戴」

「なんで⁉」


 彼の表情は引きつっていた。彼はこの仕事についてから、まだ一度も現場に潜入させてもらったことがない。それが不満なのだろう。


「アスカはよくて俺がダメな理由はなんですか?」

「アスカはカモフラージュ。相手を油断させるための」

「そんな、危険だ!」

「今までだってやってきたことだわ。知っているでしょ? こんなのはしょっちゅうあることよ。リサにも許可はとってある」

「だからって!」

 納得できていない宗平に、私は諭すように語りかける。

「宗平、聞いて。あのね、あなたがここにいないと作戦は始まらないのよ」

「え?」

 険しい顔をしていた彼はその言葉にふっと、表情を緩めた。

「あなたの役割は二つ。ギオルグの合図と同時にこの車の移動と、外部の状況をトランシーバーで私に伝えて欲しいの」

「え……あ、はいっ」


「ギオルグは私たちが出るときを見計らって合図を出すから、彼の指示通りに車を動かすの。そして外の状況を伝えるときは、私が外の様子を知りたいときと、外の様子が少しでも変化した場合。今、雪の状態は落ち着いているけど、いつまた吹雪くかもわからないし、それ以上に何が起こるか分からない。だからこそ正確な情報が欲しいの。分るわね?」


 私はじっと宗平を見た。

 すると彼の顔が紅潮していった。私が何を頼んでいるのかが分かり、自分の発言を恥じたようである。


「分かります」

「それから椎名の子供たちは、彼女の車に移動させるから。宗平一人でやらなくちゃいけないことが沢山あるのに、子供の面倒までは大変だろうからって、椎名が言ってたから」

「そうですか。正直、それは有難いです」


 椎名の息子たちは同年代の子と比べると聞き訳が良い方らしいが、一度自分たちの世界に入り込むと大人たちの話を聞かなくなることもある。そんなとき、宗平が一人だと任務に影響が出るからと椎名が先に言ってくれたのだった。


「それから椎名も、宗平と同じ待機組だから分からないことは聞くこと。いいわね」

「了解です」


 宗平は充実感を満たした顔を私に向けた。

 その顔を見たとき、私はどうやら嬉しかったのだ。これから緊張が高まる場面だと言うのに、自然と頬が緩んでいたのだから。

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