第3話 その先に見えたもの
スピードは出ていないが、私たちは悪路の中を少しずつ進んでいた。そのためもう少しで目的地に到達する予定のはずだが、視界が悪く目的の建物は一切見えて来ない。
そのときである。車が横にひどく揺れた。
「わ! いってぇえ……」
宗平は再び頭をぶつけ痛みに耐えているようだったが、この揺れで後部座席で寝ていた三人の子供の内一人が目を覚ました。
「うん……?」
「あー……」
「メアリーさん?」
「一人、起こしちゃったみたい」
私はバックミラーを見ながら、女の子が一人目を開けたのを確認する。肩まである茶色いウェーブがかかった髪に、好奇心旺盛な黒い瞳をしたアスカだ。
実は「無使用建築物探険家」の本部からここに来るまで三日間ほど要しているのだが、流石の子供たちも移動だけで疲れており、それを癒すために睡眠の時間が長くなっている。大人たちもそれは分かっていて、昨夜は落ち着けるホテルを取ったのだが、ここの天候が今からどんどん悪化していくという予報から、やむを得ず早めに出ざるを得なかった。
もちろん車内でも眠ることが出来るように工夫はされているし、快適さもあるのだが、そうは言ってもさすがにこの悪路の中で寝続けるのは難しいだろう。
「おはよう、アスカ。ごめんね、道が悪くて起こしたね」
可哀そうに思った私がやんわりと声をかけたのを聞いてか、宗平は納得のいかない様子で尋ねた。
「メアリーさん、その気遣い俺には……?」
「気遣い?」
「アスカと俺への態度、違いがありすぎませんか?」
私は少し間を置いてから答える。
「宗平は大丈夫でしょう。大人なんだし」
「……まぁ、そうなんですけど」
はぁ、とため息をつく宗平に私は首をかしげる。彼は言葉を濁したが、本当は何を言いたかったのだろう。もっと優しい言葉をかけて欲しい、ということだったのだろうか。もしそうだとしたら、私はそういうことが出来ないので諦めてもらうしかない。
「うーん……?」
アスカはベルトを外し起き上がると、助手席のヘッドレスにしがみついてしばらく寝ぼけていた。
しかし、何が見えたのだろうか。
「……なにあれ!」
突然目の前の何かを指差し、唸るエンジン音に負けないくらい大きな声を上げた。
「何?」
私は、彼女の指の先に見えるものを見ようとした。しかし、私の目にはまだ映らない。
「いででっ」
宗平はアスカに自分の髪をつかまれているようで、先程とは違う痛みを訴えていた。
「アスカ、何が見えるの?」
私は真っ白い世界の中で彼女が何を見ているのか分からなかった。もう一度目を凝らす。
「ほら、前にあるよ! 白いけむりのなかに、大きなたてもの!」
アスカは喜んでいた。彼女が喜ぶたびに宗平は髪を引っ張られていたようだが、それどころではない。トランシーバーで私の後続に続いている仲間に知らせなければ、と思ったその時である。
吹雪の中に、大きなものが見えた。それはレンガ造りの小奇麗な建物だった。
私はトランシーバーをとって仲間に知らせる。
「こちらメアリー。目標発見です、どうぞ」
今回の無使用建築物はこれか。
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