第8話 橘蓮⑧

 瑠衣は事務所に戻った。

「ただ今、蓮。大丈夫だよな?」

「うん」

 蓮は起き上がり、アイスコーヒーを飲んでソファで寛いでいた。

「そか、良かった」

 瑠衣は笑った。

「ちょっと、良くないでしょう!」

 蘭が怒っている。

「倒れた時は心配したのよ!」

「軽い貧血」

「食べないからでしょう!」

「疲れるって言った」

「だったら、食べなさい!」

「食欲無い」

 恐らくそこから『食べる』『いらない』の無限ループが繰り返されるだろう。

 二人の言い争いにはおよそ、終わりは無い。二人は瑠衣からしたら仲がとてもいい二人だった。

 しかし、流石の瑠衣もそれを見ているのは、気が引けた。

「まあまあ、二人共、喧嘩は止めろよ。依頼人の可愛い子ちゃんが困るだろう」

 本来なら、こんな役目を買って出る事はしない。見ていて楽しいからだ。これは、この事に対し、抵抗が無く飽き飽きした表情を見せた桜を、不憫に思えての行動だった。

「あんたに言われたく無いけど、確かにそうね。それで、分かったんでしょう」

「うん」

「何処ですか? 兄は何処に」

 桜の顔があきれ顔から希望の表情に変わる。

「案内するから、叔父さん、車」

「お兄さんだ。分かったぜ」

 蓮は免許を持っていないので、瑠衣の運転で目的地に向かう事となった。

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