第6話 橘蓮⑥
ビルの屋上は蓮と瑠衣の遊び場でもあった。
ボールは勿論、バットやグローブ、バスケットのゴールまであり、スポーツする為の場所であった。
蓮はここでスポーツをすると、言うか、正確には瑠衣が蓮を引っ張って、瑠衣の暇つぶしに蓮が強制的に付き添われているのだ。
瑠衣は見た目通り、蓮とは逆で、動く事も好きだった。それが体格にも現われているのだ。
「眩しい」
太陽の光が地面に反射している。
モヤシだけあって、蓮は太陽が嫌いだ。
太陽は全てを照らす。明るく、蓮にとっては、かけ離れた、愛おしい、尊い存在だった。しかし、愛が憎悪に変わるのはさほど時間がかからなかった。
こんなにも照らしているのに、心まで照らす事が太陽には出来なかったからだ。
太陽を照らすのは表面だけ。内面を照らしたのは、何を隠そう瑠衣だった。
瑠衣はとてもじゃないが、自慢の出来る親戚では無い。
寧ろ、恥ずかしい部類の叔父だ。
仕事はしない。年下の家でタダ飯を食べ、時には家賃も払い、光熱費も払う。そう言えば、スピード違反の罰金も払った記憶がある。蓮はメールを読んだが、恐らく今回も求められ、挙げ句泣きすがる気がする。
そんなダメダメだったが、たった一つ瑠衣は蓮の心を明るく照らした。
探偵を始めようと言ったのも瑠衣だし、事務所をここに選んだのも瑠衣だった。
蓮はある時から、殆ど感情を表さなくなったが、瑠衣は蓮の分まで笑ったり、怒ったりしてくれた。
ある時とは、蓮の母、瑠衣の姉の死であった。
瑠衣は蓮が可愛い訳ではなく、姉が好きだった。蓮も母親は大好きだ。
それを蓮は事故とは言え、暴走で殺めてしまった。
一番能力を嫌っているのは、持っている本人だったし、感情が殆ど無くなったのは、その時の傷の痛みで自我を失わない為の、自己防衛の為だった。
同じ痛みを瑠衣も持っているはずなのに、瑠衣は笑っている。恐らく、恨みを笑いに変換しているからだ。
蓮にはそれが出来なかった。
だから、瑠衣を見捨てる事が出来ない。
同じ痛みを持ち、変わりに笑う大事な家族を。
蘭はそんな蓮をバカにしていたが、バカにされただけで、居場所が確保されるなら、それは安い対価だった。
たった一つの居場所がそこには確かに存在したから。
蓮は太陽を背にして、都会の街並みを見る。
「風よ。僕の質問に答えろ」
蓮は目をゆっくり瞑り、突風を起こした。
「凄い風」
蘭が驚く。
一緒にいる蘭と桜が飛ばされそうになる程強かった。
風は蓮の頭上を周り、一気に分散して都会の高層ビルを駆け回った。
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