第20話 新しい展開 (7)
「優のお母さん、厳しかったな。覚悟して行ったけど、私もう全身に視線を受けているようで」
「ごめん、でもお母さん相当にカリンのこと気に入ったみたいだよ」
「なんで分るの」
「家を出るとき、言っていたのを覚えている。“花梨さん、楽しみにしているわ。葉月家に来る日を”そう言っただろう。あれはお母さんが、カリンを認めたことだよ。“葉月家の女”として」
「葉月家の女」
カリンは少し理解できない顔をして彼の顔を見ると
「“葉月家の女”というのは、葉月家をこれから守って行く人という意味。我が家は代々女性が強く、男は“刺身のつま”みたいなものなんだ。でもその女性たちは全て嫁として迎えられる。だからその資格があるか、お母さんはカリンをずっと見ていた。玄関に立ったその時から帰るまで」
「えーっ、そんな。なんで優早く教えてくれなかったの。もっと覚悟して行ったのに」
「僕は、カリンのそのままを見てほしかったんだ。もしお母さんの目にかなわなければ、あの家を弟に継がせるだけだよ。僕は葉月家よりカリンが大事だ。でもカリンはお母さんの目にかなった。僕、大変だ」
少しおどけてみせる彼に
「もう、こうだから」
そう言って、カリンは、彼の頬をつねった。
「いたっ」
そう言って彼はうれしそうに笑うと左手で頬をなぜた。
「じゃあ、明日迎えに来るね。九時でいい」
「うん」
と言うと
一瞬、彼は戸惑ったような顔になった。
「どうしたの」
「お化粧に着物。いつもの事できない」
「だめーっ。お正月はお預け」
そう言って、彼の左頬に唇を軽く当てると自分でドアを開けた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
玄関まで出てきた優の母親は、彼の顔を見るなり
「優、奥の間でお父さんが珍しく優とお酒の見たいと待っているわよ。でもその前に洗面台で自分の顔を見なさい」
そう言って、笑うようにキッチンに消えた。彼は何だろうと思って洗面台の鏡を見ると
カリンの可愛い唇の跡が左の頬についていた。
「あーっ」
洗面台から聞こえてくる可愛い息子の悲鳴に思わず優の母は微笑んだ。
「おはようございます」
優は、少し早めにカリンの家に行った。
「おはようございます」
カリンの母親は、うれしそうに言うと
「花梨、優さんが、もう来ているわよ」
「はーい」
玄関から出来たカリンは、昨日とは違って、ブルーを基調とした素敵な着物だった。彼は、今日は、映画を見に行く日なので、洋服かなと思っていたが、昨日とは違った可愛さに見とれていた。
「優、どうしたの」
「いや、カリンが可愛くって」
少し、はにかむように言うと
「優のお母様は、正月三が日は、着物と聞いたので私もそうしたの」
彼は、心の中で“なんでこう強いんだ”そう思いながらカリンの顔を見ると
「優、どうしたの」
と言って彼の顔を覗きこんだ。
「いやっ」
なにも言えずカリンの母親の方に顔を向けると
「優さん、今日は、我が家にいらっしゃれば。車を置いて」
そう言って強い視線を流しながら微笑んだ。
「優、どうしたの。映画遅れるよ」
そう言って、彼に行こうと催促すると
「分りました、今日は、映画見た後、来させて頂きます」
「えっ」
カリンは、映画を見た後、優の家に行き、また厳しい優の母親の視線を覚悟していたので今の言葉に驚いた。
「優、いいの」
「うん」
と言って彼女の顔を見ると
「それでは、映画の後に来ます」
そう言って、カリンの顔を見た。
渋谷で映画を見た後、彼の家により、少し優の母親の厳しく優しい視線を浴びながら車を彼の家に置いてタクシーでカリンの家に来た二人は、
「いらっしゃい。楽しみしていたわ、優さんが来てくれるのを」
そう言って、カリンの母親は、視線を緩めずに彼に言った。
カリンの家は、普通の家庭だ。葉月家や三井家とは違う。玄関を上がって廊下を歩き左側に応接間、その奥に奥の間があり、玄関右側に両親のベッドルーム、左側がリビングとその奥にキッチンがあり、二階はカリンと弟の部屋それに客間だけだ。
彼は、通された奥の間にカリンの父親が座っていた。
最初は、適当に挨拶をと思っていた彼は、綺麗な座布団に座るといきなりカリンの父親から
「葉月さん、娘のどこが気に入ったのかね。好きや嫌いでは、妻に迎える気にはならないだろう。可愛い娘だが」
そこまで言って、優の目を射抜くように見た。
優は、心を突き刺されたような気がした。カリンと知り合って、とんとん拍子で今まで来た。でも自分自身、流されたまま来たような感じだ。実際、結婚も自分の母親とカリンが決めたことだ。カリンにプロポーズした覚えは無い。
言葉が無かった。ただカリンの父親の顔を見るだけだった。
「お父さん、どうしたんです。せっかく優さんがいらしてくれたんですよ」
そう言ってカリンと一緒におせち料理を運んできた母親は言葉をさえぎった。
「どうしたの優」
そう言って、彼の真剣な顔を見ると心配そうにカリンは言った。
「お父さん、優に何か言ったの。優は私のものよ」
そう言って厳しい目で自分の父親を見ると彼は
「カリン」
そう言って彼女の顔を見た。
ほんの少し、ほんの一瞬時間が流れた後、
「カリンのお父さん、お嬢さんと結婚させて頂けませんか。カリンを一生大事にします。そして守ります。僕の命に替えても」
カリンと母親は、何が起こったのかわからなかった。また少し時間が流れた後、
「優さん、信じますよ」
そう言って、“もし言葉に違いがあったら、刺し違えても許さない”という父親の目が有った。
「お父さん」
カリンの母親は、一瞬に状況を理解したらしく自分の夫に声をかけると、優は深く頭を下げた。
「優さん、娘を宜しくお願いします」
そう言ってカリンの父親も頭を下げると
「優さん、お酒強いと娘から聞いています。今日は優さんのためにうまい酒を用意しています。飲みましょう」
そう言って優しい目に変わった。
カリンは、何か分らなかったが、何となく、目に涙が溜まった。
「優、そういえば、私、優からプロポーズの言葉聞いていない」
母親と父親が、後は二人でと言って、リビングに言った後、自分の家だと思ってつい、お酒を飲みすぎたカリンは、彼に絡むように彼の目を見て言った。
「えーっ」
今更で有った。
「だって」
カリンの父親は結構お酒が強く二人で一升空けたので結構効いていた。
「だって、なに」
酔いがまわっているらしく、着物の胸元が少し乱れたカリンに詰め寄られると
「また、ここ見ているの。エッチ」
そう言って、彼の顔に自分の顔を寄せた。
「いや、そんなわけでは」
「じゃあなによ。お父さんには私とのこと言えても、私には言えないわけ」
完全に酔っている彼女を見て酔いながら“参ったなあ”と思っていると
「優、二階に行こう。まだ、八時前だよ。テレビもあるし」
そう言って、カリンは彼を自分の部屋に誘った。
二階に上がると部屋が三つあって、それぞれ個別にドアがついていた。
「優、こっち」
そう言って一番奥の部屋を指しながら千鳥足で歩く彼女に“大丈夫かな”と思っていると彼を自分の部屋に入れた。
“じーっ”と彼の顔を見るとカリンは目を閉じた。
カリンは、いつもだったら彼が唇を合わせてくれるのに、今日はしてくれないのを不思議に思い目を開けると
「カリン、口紅、それに着物」
“あっ”と思って、ドレッサーのそばにあるティッシュペーパーの箱からティッシュを出すと、唇をぬぐった。
「優」
それだけ言うとまた、目をつむった。
彼は、ゆっくりと彼女の肩に手を掛けてそのまま背中に手を持っていくとカリンの唇にあわせた。柔らかいマシュマロのような唇だった。吸い込むようにしながら下唇に唇を合わせながら、彼女の背中を引き付けた。
ただでさえ大きい彼女の胸が着物で締め付けられているとはいえ、優の胸に当ると優は自然と自分の右手を彼女の左胸に持っていった。着物が固くて無理かなと思ったが、彼女の胸の大きさが、十分に彼女だということを分らせた。
「優、ごめん、今日はここまで。明日は洋服で行く」
そう言って、何かを求めるような目をして彼の体から離れるともう一度唇を合わせた。
「優、少しリビングで待ってて」
そう言って、ドアを開けて階下にいるお母さんを呼ぶと
「お母さん、もう着物脱ぎたい」
リビングで、彼女のお父さんと結局ブランディを飲みながら待っていると洋服になったいつのも彼女が降りてきた。
「優、もう帰る。そこまで送っていく」
「いいよ、寒いから」
そう言って、リビングを立つと、玄関のコート掛けに掛けてあった自分のコートを取って、靴を履いた。彼は玄関に立っている彼女の両親をしっかり見て
「今日は、ありがとうございました。お母さん、おせちとてもおいしかったです」
そう言って、深く頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。また、いらして下さい」
そう言ってうれしそうな顔をするお母さんと、なにも言わないがしっかりと彼の顔を見ながら優しい目をする彼女のお父さんが、少し頭を下げた。
「じゃあ、少し送ってくる」
カリンは、玄関を出ると
「うっ、少し寒い」
そう言って、彼の腕にしがみついた。酔いが二人とも大分飛んでいた。正月二日目だが人通りは少なかった。
家の玄関から通りまで出ない通路で
「優」
と呼ぶとカリンはもう一度目を閉じた。
彼はゆっくりと唇を当てながらカリンの左胸に手を当てた。ゆっくりとブラのアンダーラインを確かめると上に優しく触りながら横に手を持っていった。
優しく。そして手のひらで胸全体を包むようにすると、今度は指先で胸のトップを探すように触った。
カリンは、彼の愛撫を快く受け入れた。やがて彼が既に変化が起きている自分の胸のトップを指で摘むと、彼の唇を強く吸って彼の背中に手を回した。
いつの間に彼のこれを受け入れるようになったんだろう。カリンは、心地よい感覚の中で“ふっ”と思った。
やがて、いつものように、右手が胸から背中、腰まで下ろすと、カリンの可愛いお尻をゆっくりとなでた。彼に体を預けながら、気持ちよい感覚に少しの間そうしていると、やがて彼は手を放し、
「カリン、あしたは、洋服で出かけよう。九時に迎えに来るね」
頭を縦に振って
「うん」
と言うと彼の体から自分の体を離した。
「カリン、じゃあここで」
そう言って、玄関から二メートルも離れていないところで手を振りながら駅に向った。
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