剣の件

澄岡京樹

銃と剣

剣の件



 お久しぶりです。お元気そうで何よりです。私ですか? はい、おかげさまですこぶる元気です。……いやいや何をおっしゃいますか、神崎さんがいらっしゃるからこそ私もどうにかやっていけているんじゃありませんかハハハ。神崎さんの〈思念具現化能力ソリッド・ハート〉で武器を生成していただいているので私としても魔獣ハンターとして活躍できているわけですよ、ええ。神崎さんお手製の〈銃〉あってこその私ですから。


 ……などと言ってはみたものの、やはり神崎さんには私の胸の内など見透かされていたようですね。

 ——ええ、実は今、若いわりにやたらと手練れのハンターがいまして……。そのハンターは二十歳前後の青年男性といった感じの風貌でして、淡々と仕事をこなすクールガイといったところでしょうか。仕事は早いのですがとにかくコミュニケーションを取ってくれなくてですね——あぁいや、それを言いたかったわけではなくて。まぁ積もり積もった不満ゆえに、細かいところまで鬱憤が溜まってしまっただけでございます。……はい、ではそろそろ本題に入らせていただきます。


 その青年なんですが、掌から剣を射出するんですよ。ズルくないですか?

 私の能力はまぁその、〈不明物質〉に触れてしまっても簡単にはバグらないという特殊耐性でありますから、それ自体は悪くないのですけれども、しかしながら彼の能力、アレほんとズルくないですか? 彼の剣弾ってば刺突力に優れた感じの形状になったりギザギザした引き抜きにくい形状になったり、そしていざとなったら手に持って近接戦闘までできたりとなんというかあらゆる射程に対応しているんですよね。方法はわからなかったんですけど、彼、洞窟に潜伏していた魔獣を入り口にいながら倒したこともあるっぽいんですよね。何なんでしょうね本当に。


 ……私が言いたいのはですね、シンプルなことなんです。ええ本当に、実に、実にシンプルな内容です。



 銃は! 剣より強しじゃ! ないんですか!!!???



 ——とまぁ、そういうことなのです。そういうことなのですよ。

 だっておかしくないですか? どんだけオールマイティな剣なんですか彼の剣弾は。もう銃の優位性なくないですか? いえ、いいえ。これは別に神崎さんの精製された武器を軽んじているわけではございません。そのような意図は皆無でございますですよ。ただ、ただですね、あんな能力持ちがいたのではハンター業界は縮こまってしまいませんかねって思った次第でございますよ。何なんでしょうねあの能力。『魔獣討伐最強能力ランキング』とかあったら上位に食い込むやつでしょアレ。しかもアレ彼の自前能力なわけじゃないですか。じゃなければ掌から剣を射出とかできませんからね。自前以外だと基本外付け武装ですからね我々。


 ……ハァ、ハァ、失礼しました。つい熱く語ってしまいました。ですが私のこのやるせない思いについてはご理解いただけましたでしょうか。……ええ、そうです。そうなのです。このままでは彼が全部の依頼を喰らい尽くしかねないのですよ。我々だって魔獣を喰らってようやく特殊能力を身につけた側なわけですよ。神崎さんもご存知の通りアレってかなりリスキーなわけじゃないですか。だから〈魔獣喰らい〉にならずハンター業に勤しむ人だっているわけですよ。そんな中私は魔獣喰らいになってハンターとして大活躍モテモテウハウハを望んだわけですよ。だというのに、だというのに——


 何だというのかあのクソつよ能力はァァーーーーー!!?


 ——ハァ、ハァ、そういうわけなのですよ。わかってくださいこの気持ち。わかってください我がつらみ。こっちが一生懸命魔獣に弾丸をバカスカ撃ち込んでいる時に彼何していたと思います? 魔獣を殴りつけてそこから剣を生やしてましたからね。ウニみたいになってましたよ魔獣。何なんですかねアレ。相手の内側から剣を生やすってズルくないですかね。


 ていうか。ていうかですよ。彼って別に接近戦を仕掛けなくても余裕なわけじゃないですか。だというのに近づいて戦うって何なんでしょうね本当に——え? それは相手が物理防御装甲持ちだったから? あの剣は思念を具現化させる能力ゆえに具現化前は装甲を貫通して内側に移動させられる? ……はてさて、神崎さんはどうしてそのようなことを知っておられるのです?


 ——は? え? 息子さん? 彼が? マジで?


 あっ、アァ〜〜なるほど、なるほど〜〜〜。それは納得実に納得。いやぁこれは大変失礼いたしました。強者ゆえに危険な魔獣を重点的にね、いやぁ流石は神崎さんの御子息。実に勇敢な方で有らせられる。あーなるほど、そもそもそういった勇敢な方であるがゆえにそのような勇猛果敢な能力が発現したわけでございますな。いやはや、これはこれは、恐悦至極でございますれば……。


 それでは本日はこれにて失礼いたします。いやぁ、それにしても御子息だったとは。そのような幸運に恵まれて、同じ生業の身としても大変、ええそれはもう大変心づよいですとも! それでは! また来ます!! ええ、ええ。御子息にもよろしくお伝えくださいますようお願い申し上げます! それでは、それでは!!


 お後がよろしいようで(?)




剣の件、了。

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