第43話 <最低な輩に制裁です!>

 後片付けをして建物を出る。

 結局、私がごねてイリヤとセレイナのキスシーンは流れになった。ごめんなさい。

 でも、やっぱり私的には我慢できない。あれは絶対に抗議しなくちゃ。


「あれ? 何でしょう?」

「んー?」


 イリヤが何かに気付いたように前を指さした。

 と、そこには……


「お前……! 善悪の区別もつかないのかよ!」

「はっ! 俺が善で俺に逆らうものが悪だ。それくらい区別は付いているさ」


 ユウゴとケインが揉めていた。本当にこの二人は、というかユウゴはしょっちゅう問題を起こしてるわね。

 さて、今回は何を……って、え?

 ケインの近くでいつも連れているメイドの女の子が蹲っていた。服は乱れ、激しく咳き込むほどに泣いている。

 うん。察した。こいつ……最低だ……!


「勇者だからといって……こんな横暴がまかり通るはずないだろ!」

「やけに熱くなるんだな。まさか、好きだったとかそういう系か? だったら悪いな。先に楽しませてもらったよ」


 次の瞬間、ケインがプラズマランスを使ってユウゴに攻撃を仕掛けた。

 常人なら掠っただけで感電死し、合金の板程度なら貫通する威力のある音速の電撃系魔法だけど、挑発した段階で分かっていたのかユウゴは防御魔法を展開済みだった。

 魔法は弾かれ、反撃として放たれたのが……あの風の動きと威力はゲイルアッパーね。打ち所が悪ければ脳震盪も起こせる風魔法だけど、一般的にはそこまで脅威とされていない。

 あー、考えたわねこいつ。確かにあれなら事の発端はユウゴかもしれないけど魔法の行使でそれほど危険じゃないものを使ったユウゴに比べてガチの殺人魔法を撃ったケインの印象が悪くなる。

 ユウゴの魔法はケインの腹部に大きな衝撃を与えたらしい。体をくの字に折り曲げてその場に倒れてしまった。


「ケイン様!」


 いつも一緒にいる男の子が慌てて駆け寄っていた。

 と、その間にユウゴが女の子の腕を強引に引っ張っている。


「ほら、来いよ。あっちで続きをやろうぜ」

「いや! 離して!」


 必死に抵抗する女の子に対して、ユウゴは舌打ちをして頬を叩いた。

 何が起きたのか分からないと言った様子で頬を押さえてる。それで力が弱まったことで再びユウゴが連れていこうと動いていた。

 ただ、ね。ごめんもう我慢の限界。直接的な関係はないけど止めさせてもらう。

 って、思っていたけどそれよりも先にイリヤが動いていた。ユウゴと女の子の間に割り込んで腕を引き離してる。


「あぁ?」

「そのくらいでやめたらどうですか? あなたみたいな人が勇者だなんて、女神様もきっと悲しんでます」

「ほぉ、言うねぇ。ただ、そう言われてはいそうですかと素直に従うとでも?」


 今度はユウゴがイリヤの腕を掴んだ。


「っ!? 何を……」

「邪魔するってことは、お前が代わりに相手してくれるんだろ?」

「やめっ! 離してください!」

「誰にそんなこと言ってるんだ? 魔王がでて女神様に泣きついて異世界の俺たちにすがることしかできない雑魚が調子に乗んなよ! てめぇらにできることは精々その体を使って奉仕……げふぅ!?」


 あ、しまった。ついイラッとしてゲイルアッパーを最大出力で顔面に叩き込んでしまった。

 派手に鼻血を撒き散らしながらユウゴが吹っ飛ぶ。まぁでも、イリヤに汚い手で触れたんだから当然の報いだよね。ざまぁみろ。

 防御魔法が効いていたのか、よろけながらもユウゴが立ち上がった。


「てめっ! クソアマがふざけんなぁ!」


 ……こいつ、本当に転生前はどんな人間だったのやら。クソアマとか普通使わない言葉よ。

 確か、転生には生前の善行がうんたらとか言ってなかった? もしかして私がいいように騙されただけなのかな?

 でも、別に良いけどね。私だって女神様を騙してるみたいなものだし騙されていても仕方ない。

 なーんて話をしていたら、もう目の前まで走ってきていた。これは相当フィジカルブーストで身体能力を強化してるわね。

 でも、拙い。私は魔法の才能を授けられた勇者。その程度で突破できるとは思わないことね。

 同じくフィジカルブーストで身体能力と動体視力を強化してユウゴの拳をひらりとかわす。で、それからがら空きの腹部に思いっきりパーンチ!

 魔法障壁を一撃で破壊するほどの威力で、ユウゴがまた吹っ飛んだ。樹に体を打ち付けて呻いている。


「バカ、な……俺様が何度もこんな……」

「どう? まだやるつもり?」

「ふざけんなよ……こんな……異世界のカス共に……いや、待て……」


 荒い呼吸をしながら疑問を浮かべる目で私を睨んでくる。


「リリ=ペルスティア……リリ……りり……いやいや、まさかな……でも、こいつもしかして……!」


 あ、気付かれた? そんなことはないと思うけど……どうだろう?

 その後も一人で何かブツブツ言ってたけど、血が混じる唾を吐いてユウゴが立ち上がった。こいつ相当タフね。


「ちっ。まぁ今日は勘弁してやる。じゃあな」

「次何かしたら今度は容赦しないからね」

「あれで容赦してたのかよ。死ねよ」


 ダッサイ捨て台詞を残して歩いて行ってしまった。

 ほんと、私あいつ嫌いだ。女の子が気の毒で仕方ない。

 うーん。ケインにもあいつとは関わらないように強く言っておいたほうがいいのかもしれないねこれは。

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