第42話 <演劇の練習です!>
「はっ! あんたごときが私たちと一緒にお城の舞踏会に? 笑わせんじゃないわよ!」
アニメで勉強した悪役令嬢ムーヴを全力でかます。
私たち三人しかいない空き教室でやってるからいいものの、これ、事情を知らない人から見たら絶対にアウトな場面だって自覚があるわ。
「ですがお姉様! わたくしだって貴族の集まりに参加してみたいのです!」
しかも、イリヤの演技力が高いから演技だととてもじゃないけど思えなくなってる。
でも、だからといって手抜きをするのは違う気がする。メイド虐めに勘違いされたらたまったものじゃないから、お願いだから誰も教室の前を通らないでよ……!
「お黙り! あんたみたいな底辺の女は地べたで這いつくばっているのがお似合いなのよ!」
靴でイリヤの顎を持ち上げる。
うぅ……こんなことしたことないししたくもない。この原作書いたやつ絶対に許さないからね……! これもう作者の性癖でしょ!
感想欄にひたすら文句を垂れ流す超害悪行為をしてやりたい気分……。
「お、お姉様……!」
縋り付いてくるイリヤの頬を平手打ち。……する振りをして、空気操作の魔法を上手く使って簡単な破裂音を出す。ここら辺は確かに無詠唱魔法を使える私が状況に応じてすぐに音響担当を担えるから適任かも。この主人公の姉は何かと音が必要になるシーンが多いからね。
短く悲鳴を発して倒れるイリヤ。目元にうっすらと涙が浮かんで……本当に泣いてる!? 演技だよね? よね!?
と、とりあえず次々!
次は確か……私がバケツを蹴ってイリヤの胸ぐらを掴んで往復ビンタ……。
作者の顔面に爆裂魔法撃ち込んでやりたい。
でも、ここは仕方なく台本通りに動くしか。
「きゃっ!」
「まったく。愚図なあんたにはまた身のほどってやつを教えてあげないとね!」
「っ! やめてお姉様……! 痛いのはもういや……!」
「おーほっほっほっほっ! さぁ、覚悟は……あたっ!」
「リリ!?」
後頭部に衝撃を受けて座り込んでしまう。
見ると、モップが倒れて私の頭に直撃していた。壁に立てかけていたのが倒れてきたのね。
バケツが近くに転がっているから、さっき蹴っ飛ばしたらモップに当たってそのまま倒れたってところかな? 後頭部がじんじんする……。
頭を押さえていたら、イリヤが優しく痛いところを撫でてくれた。この優しさが身に染みる。
「ありがとねイリヤ~」
「いえ。それより、さすがリリですね。迫真の演技で驚きました」
「すっごい嫌味にしか聞こえない」
イリヤの演技力はそうそう超えられるものじゃないでしょ。私、絶対に泣けと言われても泣けないと思うよ。
と、そんな風に思っていたら拍手が聞こえて意識がそっちに引っ張られる。
セレイナが笑いながら拍手を送ってくれていた。
「いやー、私からすると二人とも名演技だったよ。イリヤちゃんの悲劇のヒロインっぽさもすごかったし、リリのクズっぷりも光ってた」
「褒められたはずなのに嬉しくない……」
もやもやっとした気分になる。
「てか、こんな貴族いないでしょ! 姉は妹を愛でるものなのに!」
「リリの理論は分からないけど、確かにこんな貴族いたら法で処罰できるからいないと思うな」
「――あら。東に行けばこれが可愛く思えるほどの外道がたくさんいるのよ?」
不意に入り口近くから声が聞こえた。
いつの間にそこにいたのか、エルサが怪しい笑みを浮かべて立っている。今日はキルアちゃんは一緒じゃないんだね。
「楽しそうなことをしてるわね。何やってるの?」
「あっ、エルサも手伝ってよ! 学園祭で生徒会が披露する演劇なんだ」
「面白そうね。私も何か役をもらえるの?」
「どんな役になるかはイレーネ姉に聞かないとだけど、人手は多いほど良いって言ってたから問題ないよ」
「じゃあ、参加させてもらおうかしら。キルアも一緒にいい?」
「もちろんっ」
本人がいないところで決めてもいいのかな? いいか。
とにかく、エルサとキルアちゃんが演劇に協力してくれることに! これは嬉しいな。
「そういえばエルサ様。先ほど、東に行けばどうというのは……」
「それは聞かない方が身のためよ」
エルサが怖い。イリヤも空気を察して黙っちゃった。
この話題はここまでにしておきましょうか……。
「じゃあ、リリとイリヤちゃんのシーンも練習したことだし、次は私とイリヤちゃんのキスシーン練習する?」
「分かりました。……ただ……」
「ただ? ……リリ、血涙流してるわよ?」
視界が赤いと思ったらそういうこと。
でも、仕方ないじゃん! 愛しのイリヤが他の女とキスするなんて! それを目の前でやられるなんて!
盛り上がりに欠けちゃうけど、このシーンはハグとかに変更するようにイレーネ様に抗議してみようかなぁ?
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