第3話 <のんびりお茶しよう!>
私、リリの朝は早いのです。
一日の始まりはイリヤの目覚ましから。眠っている私の傍らで、そっと頬を撫でて起こしてくれる。
「リリ、朝ですよ」
「う~ん……あとちょっとぉ……」
「もうっ。起きないとイタズラしますよ?」
氷の魔力を手に集め、キンキンに冷やして首筋に当てようとしてくるイリヤ。でも、私はそのさらに上をいく!
素早く腕をイリヤの後ろに回し、勢いよく抱き寄せて唇を彼女の口に押し付けた。
「っ! リリ!?」
「ぷはっ! えへへ、おはよう」
顔を真っ赤にして唇をなぞるイリヤ。この反応が面白くて、時々キスしたくなっちゃうんだよね。
イリヤは、頬を赤らめて花瓶の水を変える。その間、私は隣で寝ているリリスと戯れることとしよう。
トコトコと歩いてきて私の枕で丸くなるリリスの首下を優しく撫でてやる。気持ち良さそうな鳴き声を発しながら、目を細めて身を委ねてくれるリリスの愛しさに朝から幸せな気分になる。
昨日保存しておいたお魚をリリスにあげると、私たちも食事にする。二人で食堂に向かうと、すでにお父さんとメイドさんたちが待ってくれていた。
美味しい食事を堪能して部屋に戻る。と、ここまでが毎朝の光景。さてさて、今日は何をしようかな?
外を見ればとてもいい天気だった。こういう日には、出掛けないとね。
ただ、先日の一件でお父さんにこってりお説教されたから、今日は近場で我慢します。庭に作った植物園のお花たちを世話しようか。
「イリヤ~。植物園にいくけど付いてくる?」
「はい。付いていきますよ」
「ふふっ、リリスもくる?」
「みゃあ」
私の腕に飛び込んでくるリリス。もふもふの毛がとても心地よく、リリスも私の腕が気に入ったようですぐにスヤスヤと眠りについた。
気持ちよさそうに眠るリリスを見ていると気持ちがほっこりしてくる。あそこで遊ばせてあげましょうか。
イリヤを連れて庭に出て行く。庭に作られた広めのドーム状の建物の扉を開き、中に入る。ここは、私が思いつきでお父さんにお願いして作った植物園だ。
室内に置かれた椅子にリリスを寝かせ、水場から水を汲んで花に水をあげていく。色とりどりの花たちは水を浴びて花弁に水滴が付いて心地よさそう。
すべての花に水をあげたら、寝ているリリスを机に移動させて私は椅子に座る。イリヤが紅茶とお菓子を用意してくれる。周囲を植物に囲まれてのティータイムというのも悪くはないわね。
イリヤお手製のマカロンを一つつまむ。ほのかな甘味が特徴的なイリヤのお菓子は大好物なのよね。他の貴族と交流すると国内のいろんなお菓子を食べる機会があるのだけど、そのどれよりも美味しい。
「イリヤは私の好みをよく分かってるわね」
「はい。私がどれだけリリと一緒にいたと思ってるんです?」
「そうね。生まれたときからずっと一緒だもの」
互いのことはなんでも分かるつもりだ。私とイリヤは一心同体だもんね。
優雅なお茶会を楽しむ。途中からリリスも目を覚ましてお茶会に加わった。実はリリスは普通の猫と違って私たちと同じものを食べても問題ない。まあ、正しくは猫じゃなくて猫に似た聖獣なんだから当たり前か。
猫用に作ってもらったカップに紅茶を淹れ、マカロンをあげる。リリスは器用に両手を使ってお茶を飲んでいた。
近くの花から花弁を一枚もらってお茶に浮かべる。文字通り華を添えたお茶に口を付けると、これまた私の舌に抜群に馴染んだ。
カップを片手に花を眺める。
「はぁ……今晩嫌だわ~。風邪とか嘘ついて欠席でもいいかなぁ?」
「ダメ。ただ他の貴族とのダンスパーティーじゃないですか。オッテル伯爵のパーティーに招かれているんですよ」
「あそこの当主も息子も苦手なのよね。なんか、視線に怪しいものを感じるし……」
「それは確かに。私も何度かお尻触られましたし」
「行きたくない~。ずっと領地で引きこもっていたい~」
めんどくさいことにはできるだけ参加したくないっ! パーティーに出たらダンスとか踊らないといけないから嫌なのよ。
「リリはきっとダンスが嫌なんでしょう?」
「そうそう。それに、きっとウザいほど縁談の話が舞い込んでくると思うし……」
「あはは……」
「お父さんがうまいこと話を潰してくれているけどさぁ。私、結婚して子供とか生みたくないのよ。ずっとイリヤと暮らしていたい」
この国では同性婚も認められているの! 男の子同士や女の子同士の結婚が許されている素晴らしい国! でも、そういうのは大抵庶民だけの話で、跡継ぎやらなんやらで貴族は同性婚なんてない。
もういっそのこと私とイリヤが第一号になってもいいと思うんだ。お父さんも縁談の話を潰してくれてるってことは、ちょっとは応援してくれているかもしれないんだし。
でも、やっぱりめんどくさいけどパーティーには出席しますか。もしセクハラなんてしてこようものなら、我が家が階級は上だから皇族に報告して厳しく処罰してもらおう。
悪い顔をしていると自覚しながら、私はもう一口お茶を飲んだ。
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