第2話 <楽しい異世界ライフです!>
「――おしまい」
そう言って、お父さんがアルバムを閉じます。
あれから時は経ち、私は十五歳になりました。前世も合わせると……数えたくないからやめた。
今、部屋にはお父さんとグラハムさん。それから私と、正式に私の専属メイドになったイリヤがいる。ちなみに、お姉様は国立学校に在籍しているため帝都にいて、お母さんもその付き添いのため帝都で暮らしている。ペルスティア領の我が家には、お父さんと私、グラハムさんとその奥さん、あとイリヤと住み込みのメイドさんが何人か暮らしている。
我が家は広いのだ。立地も最高でもう至れり尽くせり!
「あー、あの頃のリリは可愛かったのになー」
「お父さん、老眼が進んだ? ほら! あなたの可愛い娘のリリはここにいますよー!」
私は全力の笑顔をお父さんに向ける。お父さんは、にっこりと微笑んで――私の頭に指を食い込ませて強烈なアイアンクローを決めてきた!?
「ぎゃああああああ!? 痛い痛い! お父さん! 痛い!」
「やかましい! 可愛い貴族令嬢というものはメイドと二人でドラゴンキラーなどと呼ばれんわッ!!」
私の頭を掴んでぶんぶん振り回しながら、もう片方の手で部屋に運び込まれた海竜の首をバシバシ叩いている。あ、死体は庭で冒険者ギルドから呼んできた人たちにバラしてもらってる。ついさっき、私とイリヤの二人で倒してきたやつだ。
いや、説明させて!? 漁村近くに下位の竜である海竜が出て漁ができず、困ってるという噂を聞いたから行っただけ。私は領民のためになることをした。つまり、私はなにも悪くない!
よし、いける。お父さんも説得できる。
「聞いてお父さん! 私……」
「どうせ、私は悪くないという結論の話だろ、この馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぎゃああああああ!? 頭が、頭が変形するぅ!?」
容赦ない! 可愛い娘への仕打ちとしてはあんまりだ!
しばらくすると、ぺい、といった感じで投げ捨てるように解放される。うぅ……頭が痛いよぅ……。
お父さんは、盛大なため息を吐いて椅子に座った。愛用している頭痛薬を飲む。
「だがまぁ、今回はお前の動きが早くて助かった。それについては礼を言おう」
「いいって。どうせ、素材回収のついでだったし」
「……ピクニックとして出て行ったのではなかったのか?」
あ、しまった。そういうことにしてたんだった。
やばい、お父さんが指の運動をしてる。あれはもう一度アイアンクローがくるパターンじゃないか!
これ以上やられてたまるもんですか。イリヤを連れてとっとと逃げよっと。
「そ、そういうわけなんで後処理お願いお父さん! 行くよイリヤ!」
「え!? リリ様!?」
「あ、コラー!! 待てリリー!!」
お父さんの怒声を背中で聞きながら、逃げるように私の部屋へ。途中、メイドさんや騎士の方々とすれ違ったけど、皆苦笑して見送ってくれた。もう、慣れたんだね。多分、皆さんの中での貴族像とか壊れていってるんだろうなぁ。
猛ダッシュして私の部屋まで帰ってくる。イリヤを部屋に押し込み、お父さんが入ってこれないように鍵を閉める。
ふぅー、助かった~。お父さんのアイアンクローは痛いんだよね~。
「イリヤ~、疲れたよぅ~」
「ふふふ、あれはリリ様が全面的に悪いのでは?」
「そんなことないもーん。あと、ここでその呼び方は禁止ね」
「はいはい、分かりましたよリリ」
部屋の中では、私とイリヤは対等な友人。様付けは絶対に禁止なのです。
ベッドの上で足をバタつかせるという、貴族が見たら悲鳴を上げて、お父さんが見たらアイアンクローを仕掛けてくるような体勢でだらける。それも飽き、私は隣のイリヤのベッドへと飛び込んだ。
「はぁ……イリヤの匂いがするぅ……」
「私そんなに匂いますか!? お風呂には入っているのですが……」
「幸せになる匂いだから問題なぁい」
緩みきった顔でいると、足元に気持ちいい感触が。両足を駆使し、触れてきたその子を頭元まで運ぶ。
「おー、よしよしリリス。お腹空いたのかい?」
「みゃぁー」
私がこの世界に転生するときに連れてきちゃった猫ちゃん。名前はリリス。お父さん曰く、いつのまにか家にいて、私をいつも見守ってくれていたのだとか。
ちなみにこの子、お父さんたちには秘密にしてるけど、以前教会で種族を鑑定してもらったら、伝説に登場するホーキャツという聖獣の仲間らしい。神父さんが驚いてひっくり返っちゃったから、これはそこの教会と私たちだけの秘密にしている。
ただ、聖獣云々関係なしに可愛いのよ! 湖で獲ってきた魚を取り出し、リリスの前でヒラヒラと見せる。必死にキャッチしようと、肉球をすりあわせる仕草がたまらなく愛おしい……!
魚をあげて、食べる姿を眺める。頭の痛みも引いていくよぉ。
そんなこんなで、私の第二の人生は楽しくやれています。神様、ありがとう! 私、この世界で自由にのびのびと生きていきます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます