第4話 <パーティーに行こう!>
嫌々ながらも支度をして馬車に乗る。はぁ……貴族ってどうしてパーティーが好きなんだろう。あんな無駄にお金使ってご飯を奢る催しなんて大嫌いだわ。
ダンスとか踊るのも面倒だしね。男と踊って何が楽しいのよ。どうせなら令嬢と踊りたいのだけど……そうもいかないのが面倒ね。
イリヤの肩にもたれかかってぼんやりと窓からの景色を眺める。招待状を送ってきた貴族の領地はお隣だから移動時間は短いけど、屋敷まではやっぱり遠い。馬車に揺られていると眠たくなってくるよ。
「ねえイリヤ~。膝枕してよ~」
「もう。仕方ないですね」
そう言って私の頭を膝の上に置かせてくれる。ちなみに、対面にはお父さんとグラハムさんが座っている。私の行動にお父さんがため息吐いてグラハムさんに頭を下げてるけど、これが私の普通だもーん。どうせ屋敷に着いたら令嬢みたいに振る舞わないといけないから今くらいは気を抜いてもいいじゃん。私、貴族令嬢だけど。
イリヤの優しい香りに包まれていると瞼が重くなってくる。そこに追い打ちをかけるように頭を撫でられると、それがトドメになっていよいよ眠りに落ちる。抱き枕にイリヤを使わせてもらい、夢の世界へ行ってきます。
◆◆◆◆◆
数時間馬車に揺られてようやく屋敷に着いた。到着の少し前に起きたから眠気はもうないけど……やっぱり面倒だなぁ。
なんてことも言ってられないから、令嬢スマイルスマイル。口元を引っ張って人当たりのいい笑顔を作る。
「詐欺だな」
「失礼な!」
お父さんがふざけたことを言ってくる。詐欺ってのは悪意があって人を騙すことを言うんだよ。私に悪意なんて微塵もないもん。
お父さんのジト目の視線が痛い。イリヤにも苦笑いされていると、さっとイリヤが姿勢を正して後ろに下がる。グラハムさんも腰に帯びた剣を自分の隣に置いてしゃがみ、アドミオン帝国の騎士伝統の敬礼を見せる。
こう言うとものすごく失礼なんだけど……すごい太っててはげ頭のおじさんがちょっと気持ち悪い笑みを浮かべながら屋敷から出てきた。一緒に連れている騎士たちは……悪いけどそんなに強そうじゃないなぁ。グラハムさん一人で全員倒せそうだ。
ニタニタ笑顔が特徴的なこのおじさん。彼が、私たちを馬鹿げた……ゲフン。パーティーに招待してくださったオッテル伯爵だ。
「よくお越しくださいましたアルフレッド辺境伯様。そして、リリ様。お久しぶりですな」
「お久しぶりですオッテル伯爵。お元気そうで」
「ええ、リリ様も。ささ、どうぞ中へ。お付きの騎士殿と侍女さんもご一緒に」
伯爵に案内されて屋敷へと入る。どうやら到着したのは私たちが最初だったみたいで他の貴族はまだ誰もいない。少し早く来すぎたかな? メイドさんや執事さんたちが一生懸命会場のセッティングをしていた。
頑張るなぁ、とその様子を見つめていると、お父さんに肘で脇腹を小突かれる。
「おい。頼むからしっかりしてくれよ……」
「問題ないよ。ここまで大丈夫だったでしょ?」
「違う違う。お前がまたブリャークくんと揉めそうで怖いんだよ……」
「私からは手出ししないもん。ええ、私からは」
「はぁ……なんで皇女殿下とは仲良しなのにブリャークくんとは仲良くできないんだ……」
そりゃあ相性ってやつでしょ。それに、どうにもあの人下心丸出しで嫌いなのよね。
とまぁ、噂をすれば本人が登場するってのはよくある話で、勢いよく扉を開けて金髪の同じくらいの年頃の男性が入ってくる。
「やあやあリリ様! 遠路はるばるよく来てくださった!」
「ごきげんようブリャークさん。お招き感謝します」
金髪で、全身にキラッキラの宝石が付いた装飾品を身につけたこの男性はブリャーク=オッテルさん。でも私、この人苦手なのよねぇ~。イリヤや私にいろいろやってくるし。
馴れ馴れしく私の肩に手を回してくる。まあ、このくらいは私だって見逃してあげるわ。心が狭くないからね。ただ、分かっているのかどうか知らないけど家の階級は我が家が上だからね。
「どうです? パーティーが始まるまで一緒にお話ししませんか?」
「ありがたい申し出ですけどごめんなさい。父と少しお話が」
「それは残念ですね」
そう言って私の肩から手を離す。これで終わりかと思いきや今度はイリヤに話しかけてるし。節操なしか!
「貴女はどうです? これから一緒に」
私と同じようにイリヤの肩に手を……いや、私の時より酷いわ。あれ、どう見ても胸に手が当たってるもん。ちょっと指もいやらしく動いてるし。先端を摘まもうとしてるわよね。
私のイリヤに手出しするとはいい度胸ね。寝取られ展開を防ぐためにも手を打たせてもらいましょう。
右手に魔法で電気を集める。ちょっと強めの静電気程度に感じるくらいに調整して……攻撃魔法だってバレないように隠蔽の魔法も組み合わせる。これで準備よし。後は肩に触れて電気を流すだけ。
「痛ッ!」
「あら、ごめんなさい。肩に付いていた埃を払ったら静電気が」
「あ、あぁ……ありがとうございます……」
「はい。……ところで、申し訳ありませんがイリヤには父と話すときに使う資料を持たせているのです。悪いのですが……」
「そういうことなら。残念ですが、諦めましょう。お二方、ぜひパーティーではお話を」
ブリャークさんが去っていく。一安心と胸をなで下ろすと、今度は頭に拳骨が落ちてきた。
「痛ッ!」
「揉めるなと言っただろう。何いきなり魔法を使ってるんだ……」
「うげっ、バレてる……でも! ちゃんと理由が!」
「さすがに私もあれはやり過ぎだとは思うが、個人的にはお前のほうがやり過ぎだ。貴族社会にはあんな連中がゴロゴロいるから、毎回魔法で撃退しようなどと考えるな」
お父さんの言うことはもっともだけど、これが私のやり方です。変えるつもりはありません!
それに、昔からのルールがあるもん。百合に挟まる男はやっちまえってね。だから私の行動は非難される筋合いはどこにもないのです! どやぁ!
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