第十一章 最前線へと舞い戻ります!
第一話 衛生課、北へです!
「まさか、置いていくつもりじゃないでしょうね?」
白髪の上司が動き出したとき、パルメは釘を刺すように言い放った。
理解していたからだ。
この娘は、絶対に戦地へ向かうだろうと。
誰が忠言を飛ばそうと、どれほど親しい人間が
未知の病が人間の命を、明日を脅かしていると聞いて、エイダ・エーデルワイスが立ち止まることなど有り得ない。
事実、エイダは既に幾つかの親書を認め、司令部を含む各所へと連絡を行っていた。
身支度など、一番最初に終わっている。
恐るべきフットワークの軽さと、強靱な意志。
朋友たるレーアが、忠告の無駄を察してエイダの護衛を整えようと計らうほどの行動力。
すべてが、噛み合ったように動き出している。
たったひとりの衛生兵を戦場へと引きずり出すため、運命が胎動をはじめたかのように。
だからこそ彼女をひとりにしたくないと、パルメは願った。
「見届けさせて。アンタの応急手当を。その権利が、アタシにはある」
本心だ。
だが同時に、目を離したが最後、エイダはどこか遠くへ行ってしまうような気がしてならなかった。
幼い日、両親や一族と死別したように。
数ヶ月前、師と離れたときのように。
だから、念を押す。
「連れて行きなさい。手は、多い方がいいんでしょう?」
「……ありがとうございます」
エイダはただ頭を下げた。
有志一同は、レーアに随行。
最前線――アシバリー凍土へと向かう。
辿り着いた地で、彼女たちが目にしたものは――
「な、に、これ……」
ハーフエルフの少女は、両目をこれ以上無く見開く。
積み重ねられた死体。
苦悶に喉をかきむしり、血泡と黄色い涙を滴らせ絶命する無数の骸。
それを埋葬することも、
響き渡るのは、鼓膜を
最前線からは距離があり、戦術的
「傷病者はどこですか!」
よく響くエイダの声に、行き交う兵士たちの一人が足を止め、首を振って見せた。
「真っ先に衛生兵が死んだ。天使の指先たちが、俺たちを
「――承知しました」
このときエイダが浮かべた表情は、パルメの脳裏に焼き付いて離れなくなった。
覚悟などという言葉では生温い、
エイダは止まらない。
僅かたりとも時間を無駄にしない。
死者へと駆け寄り、その様子をつぶさに観察する。
未知の病。
その、正体を探るために――
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