13-7 エヴァン -ヘカトンケイルとの死闘 (後半)-
イフリートの火球がヘカトンケイルに直撃し、爆発したことで部屋は一時的に煙に包まれた。
一同は化け物はおろかお互いの姿も見えない中で、煙が晴れるのを今か今かと待つ。
「グギギ、、、?」
そして、爆発の煙が晴れると、大火球が直撃した腹部に大きな穴が空いており、化け物の苦しんでいる様子が見てとれた。
「やった!」
しかし穴の開いた部分は先ほどと同様、修復を始め、たちまち元通りになってしまった。
「やはりダメか。。。イフリート、もう一発撃て!今度はもっとデカいのを撃って、全身消し炭にしてやるんだ」
ヘレンが再びイフリートに命じ、イフリートが掌に火球を作り出す間に、ヘカトンケイルは腕を一本イフリートの方に向ける。
「一体何を…?」
ヘレンが化け物の行動に疑問を抱いた次の刹那。
ヘカトンケイルは自らの腕を切り離すと、その腕は凄腕の狩人が放った弓矢のように高速でイフリート目がけて向かってきた。その腕のあまりの速さに、イフリートは咄嗟に掌の火球を防御に使わざるを得なかった。イフリートに向かってきた腕は燃え尽きたが、ヘカトンケイルの切り離された箇所からは再び腕が生えている。
「なんだ、あの技は?何でもありかよ?」
「おそらく再生する力を使って、腕を高速で撃ち出したのです。炎の魔人イフリートを恐れている証かと」
文句を言うエヴァンに対して、シャルルが冷静に分析する。
「皆!イフリートが特大の火球を作り終えるまで時間を稼いでくれ!」
イフリートが掌に特大の火球を作り始める。その様子を見たヘカトンケイルはすぐさま先ほどと同様、イフリートに向けて腕を弾丸のように撃ち飛ばす。
それをシャルルとエルゼが協力して防ぐと、ヘカトンケイルの後ろからレイン・エヴァン・ウィレムの3人が斬りかかる。
「勝てなくても時間稼ぎくらいはできるさ!」
ヘカトンケイルはうざったそうにするも、3人は初めてとは思えない程の連携攻撃を見せるため、中々イフリートに攻撃ができずにいた。
「ゴ主人。イツデモイケマス」
そう言うイフリートの掌には、先ほどのものと比べると3倍もの大きな火球が完成していた。
「よし!何とかしてそいつの動きを止めてくれ!」
「任せろ!疾風魔法:
エヴァンがそう唱えると、ヘカトンケイルの周りに旋風が巻き起こり、取り囲む。ヘカトンケイルは真上に跳び上がり、そこから逃げようとするも、上空ではウィレム・シャルル・レインが既に待ち構えており、3人が同時に「落ちろ!」と剣を振り下ろしたため、再び床へ突き落とされた。ヘカトンケイルが立ち上がろうとすると、エルゼが
「これはおまけよ。氷結魔法:
と唱えたため、化け物の両脚が凍り付き、動くことができない。
「今だ!」
エヴァンが掛け声と共に風の障壁を解除したその瞬間。イフリートが掌の大火球を撃ち込み、ヘカトンケイルに直撃する。先ほどよりはるかに大きな轟音と共に大爆発を起こすと、辺りは再び煙に包まれた。
「やったか…??」
煙が晴れると、そこには頭部だけになったヘカトンケイルの姿があった。一瞬やったかと思ったが、化け物はその頭部から再び筋組織を伸ばしていき、自らの胴体を完成させた。
「くそっ、またか…」
部屋の誰かがそう呟いたが、部屋の隅の柱の陰に隠れながら、激しい攻防の様子を見ていたレーゼはあることに気が付いた。
「皆さん!奴は最初の姿より全体的に小さくなってます!これは奴の再生能力に翳りが見え始めており、化け物と言えども、魔力は無尽蔵ではないということです!」
「なるほどな。そんなことに気づくなんてやっぱりあの子、魔法の才能があるはずなんだが…」
ヘレンはレーゼに感心しながらも、イフリートに再び命令する。
「距離を取りながら奴にあの腕を撃たせ続けろ。奴が疲れたところでトドメを刺すぞ」
「承知」
イフリートは命令通り、距離を取りながら敵の周りを動き続け、ヘカトンケイルはイフリート目がけて腕を発射するが、ある時は避けられ、ある時は火球で相殺された。
ヘカトンケイルは埒が明かないと判断したのか、標的を変える。ウィレムだ。
丁度ウィレムの後ろには気絶しているマリーがいたため、避けることはできない。
剣で受け止めるが、勢いに押され、後方に吹っ飛ばされる。
「ウィレム!」
ヘレンが叫び声を上げるが、ウィレムは
「大丈夫!」
とヘレンと同じくらい大きな声を上げて答える。が、その直後。
「先生!後ろ!」
さらに大きな声を上げてヘレンに呼びかける。
ヘレンがハッと後ろを向くとヘカトンケイルの6本の腕が彼女に狙いを定め、今まさに攻撃しようとしていた。エルゼ、エヴァン、シャルル、レインがその攻撃を止めようと一斉に攻撃を仕掛けたが、皆それぞれ腕1本に防がれてしまった。残った腕2本による攻撃がヘレンの体を貫いたと思った時、代わりに体を貫かれたのは炎の魔人イフリートだった。
「ゴ主人、スマナイ。私ハココマデダ」
と言い残し、イフリートは無数の淡い小さな光へと姿を変え、最後は花火が消え去るように、静かに霧散していった。
「イフリート!?」
ヘレンが「貴様ァ!」と叫びながら短剣で斬り付けるが、ヘカトンケイルに攻撃を仕掛けていた4人もろとも、腕をぶん回されたことで吹っ飛ばされてしまい、壁に激突した。中でもエヴァンは運悪く、激闘により破壊された壁から突き出していた鉄柱に足をぶつけ、明らかに骨が折れる鈍い音がした。
「くそ…」
ヘカトンケイルに決定的なダメージを与えることのできるイフリートが消えたことで、再び絶望に襲われる一同。
「何か考えは?」
「もう一度、、もう一度だけ奴の体に風穴を空けられれば…」
「ちっ。イフリートもいないのにどうやってそれをやるんだよ。俺の魔力ももうゼロに近いぞ…」
レインがエルゼに尋ねるも、エルゼは満足の行く回答ができずにいた。ましてや二人とも壁に激突した激痛で中々動くことができない。
しかし、そんな中から
「奴の魔力を浪費させる作戦は継続する!」
と、エヴァンが一同を鼓舞するように飛び出す。
ヘカトンケイルがエヴァンを仕留めようと、6本の腕を振り回し、さらに時には腕を切り離しながら襲い掛かる。
激痛で呻いていたエルゼ達も自分たちだけ休んでいるわけにはいかないと、エヴァンに加勢しようとするが、風に舞いながらダンスするかのように軽やかなエヴァンの動きとヘカトンケイルの激しい攻撃に中々そのタイミングが掴めずにいた。
「どうして、そんなに頑張れるの…?」
ダメージも受け、足の骨が折れ、立っていることすら辛いはずなのに、ただ一人戦うエヴァンを見て、シャルルが思わず呟く。
エヴァンはその呟きに答えるためか、自分を鼓舞するためか分からないが、
「俺はなぁ!友達だと思っていた奴に裏切られた!!悔しかったよ!けどなぁ!レーゼはもちろん!今ここにいる人、皆!もう友達なんだよ!!カールと同じくらい、、、いや!カール以上の友達だ!俺はもう友達を失いたくない!だから、、、俺が守るんだ!!」
と、剥き出しにした本能のままに叫ぶ。
「エヴァン…」
それを聞いたレーゼはどうして自分には戦う力がないのか、どうして自分はこんなに傷ついてまで戦うエヴァンの助けになれないのか無力感に涙した。
ヘカトンケイルを翻弄していたエヴァンだったが、唯一あからさまに避けているポイントがあった。それは部屋の隅の柱で、なぜならレーゼが隠れているからだ。
そのことに気づいたヘカトンケイルは、その柱目がけて腕を射出する。
「レーゼ!」
「きゃぁぁあ!」
化け物の腕が直撃した柱は倒壊し、レーゼの姿が露わになる。
さらにヘカトンケイルはレーゼに狙いを定めた。そして、再び自らの腕を高速で射出させる。
「まずい!」
エヴァンはすぐさまレーゼの前に立ち、呪文を唱える。
「疾風魔法:
エヴァンの前に小さい竜巻のような旋風が巻き起こるが、敵の攻撃の勢いが勝り、エヴァンは敵の攻撃をもろに受けた。
「エヴァン!!大丈夫!?私のために…」
「だ、、、大丈夫だ。って言いたいところだけど、これはちょっとヤバいかもな…」
自らの疾風魔法により勢いを軽減したとはいえ、エヴァンは全身傷だらけで、これ以上戦えそうにない状態にある。
「よくも…」
レーゼが涙を流しながらも、怒りの形相でエヴァンの前に立ち、ヘカトンケイルを睨む。
なんだよ、レーゼ。お前泣けるんじゃねぇかよと感じているうちにエヴァンは気を失った。
「撃ってきなさいよ、この化け物」
「グギギ、、、コロス」
ヘカトンケイルは表情を変えないままレーゼの方を向き、再び自身の腕を切り離し、弾丸のようにレーゼに向かって放った。
「ちょっ!危ない!」
一同が叫ぶ中、レーゼはただ一人怒りと冷静さを混濁させ、集中力を高める。
私だって皆の役に立ちたい…
私が足手まといだからエヴァンにこんな大けがを…
エヴァンをこんな目に遭わせたこの化け物を許さない…
レーゼの様々な思いが今一つになり、無意識のうちに自然と呪文を唱えていた。
「反射魔法:
瞬く間にレーゼと横たわるエヴァンの周りに光り輝く結界が発生し、二人を優しく包み込んだ。そして、その結界はヘカトンケイルの放った腕を跳ね返した!
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