11-4 エルゼ -貴族と平民-

「炎熱魔法:火球爆発イラプション

 レインが唱えると、地面の下から炎が沸き上がるように爆発を起こす。

「氷結魔法:氷結の吹雪クール・ブリザード

 エルゼが唱えた魔法により、氷結の礫が上空から私兵たちに襲い掛かる。


「ほーぅ。さすが帝都の兵士ってのは、名ばかりじゃないようだなぁ」

 レイン達の唱えた魔法で何人もの私兵たちが吹っ飛ばされるのを見ながら吞気にそう語るヘレンに対し、ウィレムが必死に訴える。

「先生!真面目にやってください!こいつら結構手強いですよ!」

「全く、アラムめ。私だって真面目に戦っているぞ。大体、私のことを先生と呼ぶんじゃない!今はお姉さまと呼べ!」

 真顔でそう言うヘレンに対して

「やっぱり真面目じゃないですかぁ!」

 とウィレムは悲痛な叫びを上げながらも着実に敵を減らしている。

「仕方ないな。。。少しは働いてやるか。手伝うって言っちゃたしな」

 ヘレンは長机の上に置かれていたコップに入った水を利用し、呪文を唱える。

「万物の母たる水流よ。今こそ水蛇となりて顕現せよ!召喚魔法:水蛇サーペント!」

 集められた水は蛇を形成し、私兵たちに襲い掛かる。召喚魔法を初めて見た私兵たちは戸惑い惑うも、ある者は水蛇に嚙まれ絶叫し、またある者は水蛇の尾にはたかれ苦痛に悶えていた。


 その様子を見たエルゼは

「あれは、、、召喚魔法!?こんなところで見られるなんて。。。あの少年も中々の剣術だし、あの人たち一体何者かしら?」

 と驚くが、レインに諭される。

「今はこいつらに集中しろ。あの人たちが何者かは一旦後回しだ。じゃないと、敵は全員マリー姉さんに倒されちまうぜ」

 レインが顎でしゃくった方向ではマリーが複数人を同時に相手しながら、豪快に倒していく圧巻の光景が見られた。

「おらおらぁ!セドラス伯爵さんよぉ、お前の私兵はこんなもんなのかい!?プリンよりも歯ごたえがないねぇ!」


「くっ。。私が手塩にかけて育てた私兵たちがたった5人にやられるというのか。。。そうだ!あいつらを使おう…」

 そう言ってセドラス伯爵が一度屋敷内に逃げ込む。流石の5人も大量の私兵を相手にしており、伯爵を追うことはできなかったが、当の本人はすぐに戻ってきた。

「こいつらを無闇に使うことはから禁じられていたが、やむを得まい。行けぃ、モンスター共よ!」

 セドラス伯爵の号令の下、屋敷の中から十数匹のモンスターが放たれ、エルゼたちを襲う。


 馬型の足の速いモンスターや鳥型で空から襲い掛かるモンスターなど、まだまだそれなりの人数が残る私兵に加え、これらを同時に相手にするのは流石にキツい。

 まだ召喚魔法を使う女性やマリーには余裕がありそうだが、あの若い男の子の給仕やレイン、そしてエルゼ本人には疲れが見え始めており、流石のエルゼも少しマズいかもと思い始め、

「フハハハハ!この私の勝ちのようだな。お前たちも終わりだぁあ!」

 とセドラス伯爵が勝利を確信したその時だった。


 突如、屋敷の正門をぶち破る音と荒々しい喚声が聞こえてくる。その荒々しい喚声はエルゼたちが戦っていた中庭に近づいてくる。

「ちっ…。まだ新手が来るってのかよ」

 レインが忌々しそうにつぶやいたが、それはすぐに歓声に変わる。

 新たにやって来たのは先日エルゼ達が追っ払った山賊の一団だったのだ。


「よう、エルゼ。実は丁度な、お前に言われた通り、セドラス伯爵のところで士官しようと思ったんだよ。でも、この騒ぎを聞いてな。お前たちの味方につくことにした」

 お頭が話す間にも、山賊たちがセドラス伯爵の私兵たちを制圧していく。

「ありがとう、お頭さん♪」

 エルゼが満面の笑みで礼を言うと、

「おい、やめろやめろ。お前の笑顔はどうも調子が狂うんだよな」

 お頭は手を振りながらバツが悪そうにする。

「ふふっ。それは褒め言葉ですよね?」

「う、、うるせぇ!とりあえず、このモンスター共を倒してやるっ!」

 どうもお頭はエルゼが苦手なようだが、流石の強さで伯爵の放ったモンスターを次々となぎ倒していく。


 こうして、エルゼ達5人+山賊の援軍30人余りはセドラス伯爵の抱える兵力を全て制圧し、周りに誰も味方がいなくなったセドラス伯爵に向かってエルゼが宣告する。

「セドラス伯爵、どうやらあなたの負けのようですね」

「私は生まれながらにしての貴族だぞ。お前のような平民は私たち貴族のおかげで、生活が成り立っているということを忘れるな!」

「うるさい」

 負け犬の遠吠えのように吠えるセドラス伯爵に対し、エルゼは一言だけ言葉を発してからぶん殴ると、たった一発で彼はのびてしまった。

 彼が気を失ったアホ面が可笑しくて、エルゼがつい笑ってしまうと、レインも思わず笑いながら

「ハハハ、なんだこのアホ面は!エルゼ、その貴族の面汚しはもう一発殴ってもいいぞ。俺が許す」

 と楽しそうにしている。

 山賊たちは結局自分たちの手で士官先を潰してしまったので、「じゃあな、エルゼ。まぁお互い生きていたらまた会おうや」と屋敷を去って行った。


 しかし、まだこれで終わったわけではない。


 エルゼは中庭の隅の方でうずくまっているもう一人の男に近づいた。

「さぁ次はセラム、あなたよ。あなたは昨夜、自分はこれまでいくつもの事件を解決してきたと言ってたけど、本当のところはどうなの?これまでも、昨夜みたいに他の人に罪をなすりつけてきたの?」


「ひ、、、ひぃぃぃ。わ、分かった。全部話すから、僕は殴らないでください…!」

 涙と鼻水でくしゃくしゃになった情けない顔で懇願するセラムを見て、エルゼは殴る気も失せてしまった。

「す、、、全てあの皇帝陛下が悪いんです!」

「どういうこと?」

「じ、、実は父は元々は帝都ドレイドラータの上級貴族でした。それが帝都内で、貴族主義的な政策を推し進めようとして、皇帝陛下の反感を買ってしまい、このベイロックスの街まで左遷されてしまいました。しかし、父は左遷されたことに納得できず、引き続き貴族主義的な政策を取り続けました。ねぇ、あなたならドレイドラータの上級貴族だった父の名を聞いたことがあるでしょう?」

「ふん。俺を気安く呼ぶんじゃない。だが、確かに名前は聞いたことがあるな。まぁ今の今まで忘れてたけど」

 セラムはレインに救いを求めるように話しかけるが、レインの返事はそっけない。


「父の貴族主義的な政策は、数多くの行商人でにぎわうベイロックスの街ではあまり評判がよくありませんでした。実際平民による犯罪件数は年々増えていきました。そこで僕は考えたのです。この平民による犯罪を僕つまり貴族が解決すれば、貴族への支持も高まり、父の統治も上手くいくと。。。実際、最初はそこそこ上手くいってました。僕も探偵セラムと呼ばれるようになりましたし。そんなある日、ある貴族から依頼が持ち込まれたのです。貴族による犯罪も平民が犯したことにして、名探偵セラムが解決してしまえば、さらに貴族への支持を高めることができると…」

「それで、その悪魔の誘いに乗ったってわけね」

「…。こうして僕は貴族による犯罪すら、平民のせいにしてさらにより多くの事件を解決していきました」

「クズだな…」

 ヘレンが吐き捨てるように言った。


「あなた達に分かりますか!?僕たち家族は帝都の上級貴族だったのに、帝国の端っこの街まで貶められたんですよ!それが今では名探偵セラムとして、この街の犯罪を自分の掌の上で転がすことができるんです!これこそが!この権力と名声と地位こそが本来僕に与えられるべきものなのです!」

「てめぇ。一発殴って、、」

 とレインが殴ろうとするのをエルゼが止める。


「レイン、待って。セラム、あなたにはまだ質問があるわ」

 エルゼがセラムの髪を掴み、自身が扱う氷結魔法のように冷たい目線を浴びせながら尋ねる。

「あの料理人の方はどこにやったの?私が今朝衛兵たちに聞いたら、そうよ。あなたなら彼がどこにいるのか知ってるんじゃないの?」


「う、、、それを言うと僕がに殺される…」

 セラムは心底何かを恐れるような態度で答える。

「全部言うんじゃなかったの?ここで氷漬けにしてもいいのよ?」

 エルゼの浴びせる目線がさらに冷徹になると、どう転んでも死ぬと観念したのか

「僕が捕まえた人たちは皆屋敷の地下から通じるに送っています。犯罪者が多少減ったところで、誰も気に留めないですから…」

 と語尾が尻すぼみになりながら正直に答えた。


「吐き気がするほどのクズとはコイツのことだな…」

 今度はマリーが汚物を見るような目つきでセラムを見ながら質問する。

「おい、この街では失踪事件が相次いでいるはずだ。諜報部隊の斥候とかな。そっちについては知らないのか?」

「そ、、それについては僕は本当に知らないんだ。。ただ、失踪事件でいなくなった人たちも恐らく屋敷の地下から通じるにいるはずだ」


 再びエルゼが冷徹な視線のまま質問する。

「ふーん、ある場所ねぇ。で、って誰のこと?」

「ひ、ひぃぃぃ!それだけは、、、それだけはご勘弁を…!」

「ふん。まぁいいわ。どのみち現地に行けば分かることよ」


 聞ける情報は全て聞けたと判断したエルゼ達3人が、セラムは放っておいて早速その地下に向かおうとすると、一緒に戦った給仕2人も付いて来ようとする。

 マリーが

「おい、あんた達。手助けしてくれてありがとうよ。でも、あんた達まで付いて来なくていいだろうよ。これは私たち帝国兵士の任務だ」

 と制すると、ヘレンが

「実はある方の依頼でね。私たちも失踪事件について調べてたんだ。んで、こういう時はこの街を治める人物が怪しいと睨んでね。まぁ勘だけど。それで給仕として潜入してたんだけど、まさか初日でここまで進展するとは驚きだよ。そちらのお嬢ちゃんのおかげだな」

 とエルゼの方を見ながら答える。

「なるほど、随分行動力があるんだな。よっぽどの事情があるのか?」

「えぇ、まぁ。あまり詳しいことは話せませんが、失踪事件でいなくなった人々がこの屋敷の地下から通じるにいるというのなら、僕たちも行かないわけにはいきません」

 ここからはウィレムが代わりに答える。

「先ほどの戦いでも、僕たちが戦力として使えることは分かったかと思います。邪魔はしませんので、同行させてください」


「分かった、あんた達なら了承する。よろしく頼むよ」

 マリーが快諾し、エルゼもレインも賛成した。


「そう言えば、ちゃんと名乗ってなかったですね。僕はアラム。こちらの方はええと、、、」

 例によって、ヘレンが後ろからウィレムを肘で小突くので、

のカレンです」

 と紹介した。これには流石の3人も

「え、姉なの!?(ずいぶん年齢差がないか…??)」

 と驚かざるを得なかった。それは、エルゼが事件の真相を明かした時を超えるこの日一番の驚きようだった。

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