7-2 エヴァン -盗難事件-
突如、石が投げ込まれたロンスキーの店。店にいた4人は全員外に出て、犯人を捜す。店の前の通りは銀細工の装備や装飾品を買い求める人でごった返していたが、怪しい人影が店の前から足早に立ち去って行くのが確認できた。
「野郎、逃がすかよ!疾風魔法:
エヴァンは自身に疾風魔法をかけることで、まさに風の如く移動した。そして、路地裏の方に逃げた犯人にあっという間に追いつき、他3人が追いつく間に取り押さえることに成功していた。その男はいかにもごろつきといった感じのうだつの上がらなそうな男だった。
「おぉ、エヴァン。流石だな」
とロンスキーがエヴァンを褒め、カールが犯人を尋問する。
「なぜ、ロンスキーさんの店に石なんて投げたんですか?何か恨みでも?」
「ふん、俺は金で雇われただけだ。そんなことより、早く戻らないとヤバいんじゃないのか?」
石投げ男に言われ、はたと気づく4人。
しまった、今店内には誰もいない!
カールがその男を一発殴り気絶させてから、一行は慌てて店に戻る。一見したところ、特に荒らされた様子はない。奥の作業部屋に行ってみると、ロンスキーが異変にいち早く気づいた。
「
「ん、何だいそれは?」
エヴァンに尋ねられたロンスキーの説明をまとめると以下のようになる。
ただ、だからといって簡単に捨ててしまうとアルティマ神の神罰が下るような気もしたため、とりあえず店頭には出さず、店の奥の棚に置いておいた程度のものであった。
「しかし、そうは言っても盗まれたのは確かだ。犯人の野郎を見つけてぶちのめしてやりたいぜ」
ロンスキーは筋肉隆々の腕をまくりながら奮起している。
「うーん。とは言え、どうやって犯人を捜すんだよ…?」
4人が店に着いた時には既に誰もおらず、
「あ、そうだ。さっきの石を投げた男!あいつなら神像を盗んだ奴のことを知ってるんじゃないの?」
レーゼがそう言うと、その場にいた全員がその意見に同意した。ロンスキーだけは流石にこれ以上店を開けるわけにはいかないので店に残り、3人で再び路地裏に向かったが、石投げ男の姿はそこにはなかった。
「申し訳ありません。僕の殴り方が中途半端なせいで、目覚めてしまったようです…」
「気にするな、カール。起こってしまったことは仕方ないさ」
「エヴァン。。ありがとう」
悔しがるカールをエヴァンが優しく励ます。
「それよりこれからどうするの、エヴァン?唯一の手がかりを失っちゃったわよ?」
「決まってるだろ?さっきの男を探し出す。まだそう遠くへは行ってないはずだ」
レーゼが尋ねるとエヴァンは当然という表情で答える。
「そうしましょう。手分けをして探しましょうか」
カールの提案に賛同し、エヴァンとレーゼは一旦カールと別れ、石投げ男の捜索に乗り出した。
ラムールの街は人口10万人ほどの帝国内では比較的小さな街とはいえ、その中から一人の男を見つけ出すなど、大砂海の中から砂金を見つけるようなものだ。
街が夕暮れ時を迎えだんだんと人通りも少なくなり、歩き回るのに疲れ始めた頃、二人は一旦ロンスキーの店に帰ることにした。
「おう、ベストカップルさんよ。こんな遅くまで頑張って探してもらって悪いな」
もう日が暮れるというのにロンスキーは未だにサングラスをかけている。先ほど石で割られ、床に飛び散っていたガラスは既になくなっていた他、割れたガラスには木の板が打ち付けられており、3人がいない間にロンスキーが頑張って事後作業していたことが伺える。
「いや、こっちこそ悪いな、おっちゃん。あの石投げ男は見つからなかったよ」
エヴァンが申し訳無さそうに話すと、
「はっはっは。お前たちがそうやって一生懸命探してくれたってだけで俺は満足だよ。まぁカールのやつはまだ探しているみたいだが…」
とロンスキーは特に気にしていない様子だ。カールが不在ということで、レーゼが一つの仮説をエヴァンとロンスキーにぶつける。
「私、真犯人はカールさんだと思うのよね」
「な、、、何言ってるんだレーゼ?」
エヴァンが驚いて目を見開くと、ロンスキーも筋肉をピクッとさせながら尋ねる。
「レーゼちゃん。。それは何か根拠があって言ってるのかい?」
「石が投げ込まれた時のことを思い出してください。カールさんは、ガラスが割れるより前に"危ない"と言っていました。あれは石が投げ込まれるのを知っていたからじゃないかと思うんです」
「なるほど。たしかにその可能性もあるが、たまたま外を見たときにまさに石が投げ込まれる瞬間を目撃したんじゃないのか?」
ロンスキーのもっともな反論にレーゼは冷静に答える。
「たしかにその可能性もあります。しかし、あの石投げ男を殴って気絶させたのもカールさんでした。彼はあの時はわざと弱く殴って気絶させたフリをしたのです」
「むむむ。そう言われるとそういう気もしてきたが。。。」
「さらに、さっきカールさんは私達と別れました。今何しているか分かりません。あの石投げ男か
「筋は通っているが証拠がないな」
ロンスキーに言われ、レーゼもその点については認める。
「はい。おっしゃるとおりです。だから、エヴァン。彼と仲の良いあなたがそれとなくカールを見張る必要があると思うの。私の考えが正しければ、彼はそのうち、いや今夜にでも
「なんだと、、、レーゼ。言って良いことと悪いことがあるぞ」
エヴァンの顔はこわばっており、せっかくの端正な顔立ちが台無しになっている。
「俺にカールをスパイしろっていうのか?あいつは俺の親友だぞ?」
「その親友を信じるためにも見張っておく必要があるって言ってるのよ、エヴァン」
二人はお互いを睨み、主張を譲らない。その様子を見たロンスキーは二人を優しくたしなめるように言う。
「な、なぁ。お二人さんよ。そのへんにしておけ。カールには明日俺の方からそれとなく聞いておくから…」
しかし、ロンスキーが諌めるのを無視して2人の口論はヒートアップし、堤防が決壊したかのようにお互いを罵り合い始める。
「ふん。レーゼみたいなセプテリオン宮殿しか知らないお嬢様にはこの事件の犯人は突き止められねぇよ!ああ言えばこう言うで、いちいち俺の言うことに反論するんじゃねぇよ!何でも跳ね返す壁かよ!」
「そういうあなただって、このラムールの街しか知らないでしょう!似たようなものよ!」
「大体なぁ!お前が俺についてくるとか訳の分からないことさえ言わなければ俺は今頃自由気ままに一人旅ができたんだ!もうついてくるんじゃねぇよ!魔法も使えないくせによ!」
「何ですって!私がいなかったらあの時宮殿の騎士にやられてたくせに!もういいわよ、この事件は私一人で捜査するわ!さようなら!」
レーゼは扉を勢いよく開けて、街へ消えていった。
その様子を見ていたロンスキーが申し訳なさそうに一人残された青年に声をかける。
「エヴァンよぅ。。元はと言えば、俺の店が事件に巻き込まれたことが原因だから俺も責任を感じているがよ。今のは彼女さんに対してちょっと言いすぎだったんじゃないのかい?」
「だー、うっせーなぁ。なんだよ、おっちゃんまであの女の味方かよ。大体あいつは彼女でも何でもないっていうの。俺は一人であの石投げ男を探す!ちゃんとおっちゃんの目の前に犯人を突き出してやるよ!」
エヴァンは感情を押し殺して苦しそうに怒鳴りながら、勢いよく店を後にした。
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エヴァンは「くそ、、レーゼのやつ…」とイラつきながら、しばらく街をブラブラしているうちに、冷静に物事を考えられる程度には頭が冷えてきた。
先程までは赤い涙を流しているかのような夕焼け空だったが、あたりはもうすっかり暗くなっていた。
「ちっ。。。俺が行くのはあいつを信じるためだからだ…」
エヴァンは見えない何かに操られるように、歩みを進めるのだった。
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