肆
たしかに私はあなたにあててこのような手紙を残したことがあります。
「ただ一人の友、私が友、我を棄てるな」
それはあなたを縛るための言葉ではありません。
あなたには選択権があるということを、わたしは忘れてほしくなかった。だからあえて、あなたに選ばせたのです。あなたが選んでください。わたしを棄てるのか、棄てないのか。そして、わたしも選びます。あなたの選択を受け容れるのか、拒絶するのか。そしてあなたは、私を拒絶することを選んだ。
そう、それでよかったのです。
私はあなた自身とともにあることはできなくなりましたが、だからといって、私の中からあなたが消えたわけではありません。
私の中のあなたなど、あなた自身ではない。そう言われるかもしれません。けれど私は、私というフィルターを通してなお残るあなたの残像を、捨て去ることなどできないのです。
これは私しか知らない、私が愛してやまないあなたの姿からつくられたものであることに、変わりはないのですから。
だから私はこの姿を永遠に私の中にだけ留めるために、あえて私の記憶の中とはまったく違うあなたを、作品上に作り出すことにしたのです。
どれだけの原稿用紙を破り何本の筆先を駄目にしたことでしょう。何度書いても何度書き直しても、あなたの姿がにじみ出てきてしまう。
そんなことは許さない。
あなたの姿を、衆目にさらすわけにはいかないのです。
あなたの存在を、私の中だけにあるあなたの姿を完全に消すことができないのなら、この作品は未完でも構わない。わたしはそう思ってきました
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