たしかに私はあなたにあててこのような手紙を残したことがあります。



「ただ一人の友、私が友、我を棄てるな」



 それはあなたを縛るための言葉ではありません。



 あなたには選択権があるということを、わたしは忘れてほしくなかった。だからあえて、あなたに選ばせたのです。あなたが選んでください。わたしを棄てるのか、棄てないのか。そして、わたしも選びます。あなたの選択を受け容れるのか、拒絶するのか。そしてあなたは、私を拒絶することを選んだ。



 そう、それでよかったのです。



 私はあなた自身とともにあることはできなくなりましたが、だからといって、私の中からあなたが消えたわけではありません。



 私の中のあなたなど、あなた自身ではない。そう言われるかもしれません。けれど私は、私というフィルターを通してなお残るあなたの残像を、捨て去ることなどできないのです。 


  

 これは私しか知らない、私が愛してやまないあなたの姿からつくられたものであることに、変わりはないのですから。



 だから私はこの姿を永遠に私の中にだけ留めるために、あえて私の記憶の中とはまったく違うあなたを、作品上に作り出すことにしたのです。



 どれだけの原稿用紙を破り何本の筆先を駄目にしたことでしょう。何度書いても何度書き直しても、あなたの姿がにじみ出てきてしまう。



 そんなことは許さない。



 あなたの姿を、衆目にさらすわけにはいかないのです。



 あなたの存在を、私の中だけにあるあなたの姿を完全に消すことができないのなら、この作品は未完でも構わない。わたしはそう思ってきました

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る