第2話

 ◇


「今日は丹羽さん来ないの?」


「そうなのよ……例の彼とデートだって」


 マコトとケンさんが、キャッキャッ言いながらじゃれあっている。

 マコトは女性好きなのに、何故、自然にケンさんとイチャイチャできるのか……


 僕がぼーっと見つめていると、

「もう、マコちゃん。ユウキ君が冷めた目で見てるから~。でもその蔑んだような目が、またいいのよね」

 ケンさんが、ねっとりした視線を送ってきた。

 僕はすっかり「高飛車な女」という設定を二人につけられていた。


(本当はマコトなんかより、よっぽど小心者だけど……)


 カメラマンの丹羽さんが来ないことに、驚くぐらいがっかりしている自分がいた。

 さっきケンさんが『例の彼』って言ってたっけ……

 丹羽さんも男性が恋愛対象の人だったんだ。


 その日は丹羽さんがいなかったので、女装をしても写真を撮ってもらうことができなかった。


「なんかユウキ、今日つまんなそうだね?」


 マコトは僕の表情の変化に気づいていた。


「そう?」


 僕は動揺を隠したつもりだった。


「丹羽さんがいないから?」


 マコトは、あっさりと僕の心情を読み取った。


「そ、そんなことないよ」


 思わず声が上擦る。


「分かりやすいな、ユウキは……ねぇ、ケンさん?」


「あら~、ユウキ君。丹羽さんのこと気になってるの? やめときなね、あの人は……」


 含んだ言い方をするケンさんは、言葉とは裏腹に、訊いて欲しそうな顔つきをした。


「何かあるんですか? 丹羽さんて……」


「ふふ、マコちゃん。何も教えてあげてないの?」


 ケンさんは楽しそうにマコトに話を振る。


「ユウキには刺激が強そうで……」


「僕だって、そういう話くらい、聞いたことはあるから」


 心臓がバクバク打っているのを隠しながら、強がって言った。


「あのね……」


 マコトの生温かい息が僕の耳に伝わる。

 その話は、思ったよりもずっとディープな内容で、自分が足を踏み入れた世界の裏側を垣間見たような気がした。



「丹羽さんは、この界隈ではちょっとした有名人で、気に入った男は必ず落としちゃうの……ユウキ君も凄く綺麗だから気をつけなさいね」


「そ、そんな……僕は男性に興味がないから大丈夫です」


 少しだけ嘘をついた。

 丹羽さんの魅力は、やはり自分だけが感じたものではないようだ。


「マコトは丹羽さんのこと、どう思ってるの?」


 さり気なく自分から話題を逸らさせようと、マコトに話しを振る。


「うーん……俺は好きな子もちゃんといるしね。丹羽さんはカッコいいし色気のある人だと思うけど、俺は、ああいういかにもな人、苦手だからさ……」


 人間観察に長けているマコトが下した丹羽さんの評価は、あまりいいものではなかった。


「ふーん、マコトが言うんだから危ない人なんだね」


 そう僕が言うと、ケンさんは高らかに笑った。


「二人とも可愛い顔して、言うこと、えげつないわね」


「そうですかぁ?」


 マコトはケンさんと二人、突き合いながら笑っていた。

 マコトは適応能力が高く、いつも無意識に僕のことを置き去りにした。





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