僕と彼らの秘密

時和 シノブ

第1話

「どう? 御感想は」


 そう言われて鏡を覗くと、見たことのない自分がいた。


(凄い!)


 自分でも何度かこっそりメイクをしてみたことはあったけど、元プロのメイクさんの手にかかるとここまで変われるとは。


「華やかなメイク、やっぱりユウキに似合うよ」


 横でメイクをしてもらっていたマコトが鏡越しに覗いてくる。


 放課後、受験勉強の息抜きに友達とメイクを楽しむ。

 簡単な肌の手入れは普段からしているけれど、流石に派手なメイクを自宅で楽しむ訳にはいかなかった。


 僕が鏡に映る自分に見惚れていると、メイクをしてくれたケンさんが近くに置いてあったウィッグを付け、整えてくれる。

 すると華やかなアップスタイルが完成した。


「うーん、やっぱりユウキ君、華やかな雰囲気が似合うわねぇ。目鼻立ちがはっきりしてるからかしら……」


 ケンさんが褒めてくれる。


 すると、マコトは分かりやすく頬を膨らませて、

「どうせ俺は純日本人顔ですよー」

 と、しかめっ面をした。

 濃い顔の僕からしたら、マコトの切れ長の目と、適度に厚みのある唇は、クールビューティーな雰囲気で羨ましいのに……


「ところでユウキ、洋服はどうする?」


 マコトは僕に洋服まで着せてみたいようだ。

 ハンガーラックに掛けてある洋服から、僕は小花柄のシフォン地のワンピースを選ぶ。

 するとマコトが、そのワンピースを無理矢理、僕の手から奪い取った。


「もぉー、こんな普通の感じでいいわけ?どうせなら冒険してみなよ。はい、これ」


 マコトが手渡したのは、ワインレッドのレースが艶やかなワンピースだった。

 ケンさんに試着室に案内され、ワンピースを体に当てて鏡を見ると、それだけで非日常の世界に迷い込んだ気分になる。


「ほんと綺麗ね~。マコちゃんは可愛い系だけど、ユウキ君は綺麗系ね」


 ケンさんが近づく度に、強いせるような香水の匂いがした。


 ワンピースに着替えて、マコトの元に戻ると、彼はアイドルの衣装のような、いかにも女の子な出で立ちで僕を待っていた。


「悔しいけど、ほんと綺麗だわ……じゃあ、写真撮ってもらお!」


 カメラ担当の丹羽さんに上手く乗せられ、僕は取ったことのないモデルのようなポーズで写真に納まる。


「マコトに聞いたけど、今日が初めてなんだって?」


 丹羽さんは、さり気なく僕の腰に手を回してきた。

 ケンさんと違って、大人の男らしい匂いがする。

 不思議と嫌な気はしなかった。


「……はい」


 ケンさんにはスラスラと話せたのに、丹羽さんには上手く話すことができなかった。


 それからマコトやケンさんの勧めもあって、僕は学校帰りに、こっそりこの妖しい店に顔を出すようになった。


 受験のストレスを発散させるには、これ以上ない場所だった。


 夕暮れ時の数時間、僕はマコトと女性になる。


 初めのうちは抵抗があった僕も、日に日に行動が大胆になっていった。

 マコトに影響され、こっそりお風呂場で脛毛まで脱毛してしまった。

 本当は髭の永久脱毛もしたいんだけど、父や母にばれてしまいそうで実行に移すことはできなかった。


 ◇


 翌日の放課後、マコトがふざけて腕を絡めてきた。


「ユウキ、今日も行くでしょ?」


 たまにマコトは声が裏返る。

 放課後になると、開放感からそうなるのかもしれない。

 僕は少し気持ち悪く感じて、腕を強く振り払う。


「ユウキ、なんか怖ーい」


 マコトは余計にくねくねとして、体をくっつけてきた。


 彼は女装好きなだけで、恋愛対象は恐らく女性。


(僕は……)


 特別に『好き』と思える相手には、男女共に出会ったことがなかった。


 あの人と出会うまでは……




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