第九棒

完全にすべての恋愛フラグが折れるまで気は抜けない。


何故ならゲーム画面を確認出来る訳では無いし、ステータスを覗くことも出来ないからだ。あくまでタマちゃんと確認しながら好感度数値を推察していくだけだった。


今の所一年の春の段階でタマちゃんがあげた好感度(推察)は★五段階で…こんな感じだ。


ミスト=アイエデーダ伯爵子息★★

ビィルブ=シューメル侯爵子息★

ガント=ローマレ先生

ディリエイト=クレウドローア王太子殿下★


今の所一番好感度が高いのはミスト様だが、一年生の夏の旅行イベントで見事にフラグを折っていて、タマちゃんが夏は私と殿下達と一緒にいたものだから、もうこの段階で攻略キャラ4名の恋愛は不可になっていると思われる。


ここで、恋愛ゲームをよくプレイしている方なら気が付かれた方も多いだろう。


なんか攻略キャラ少なくね?


そう…『愛☆フリシェリアーナ~学園編~』は実は序章という扱いで実際のゲームでは結構な駆け足で時間が進んで、あっという間に三年間の時間が過ぎるのだ。


そして『愛☆フリシェリアーナ~社交界編~』で攻略キャラの人数が一気に学園編の4名から追加8名を加え総勢12名に増えるという訳だ。この『愛☆フリシェリアーナ』の本番は社交界編からスタートすると言っても過言ではない。


そして重要な事なのだが、社交界編に突入したと同時に主人公が変わる。リアシャは田舎に帰ったという設定になって、新しい主人公の男爵家出身のメイドのナナージェ=アクスに変わるという事だ。


そう、リアシャはこの学園編の三年間さえ乗り切れば後は棒読み&棒演技から解放されるのである。


しかしリアシャさんことタマチャンは嬉しいことを言ってくれた。


「どうせ私ってば、そう言えばあんな子いたな~くらいでしか文章でしか出て来ない存在になるじゃない?だから王都に残って、こっちで働こうと思うの!どうせもうすぐモブ扱いだしね」


「タマちゃんが近くにいてくれるの、嬉しい!心強い!」


タマちゃんはサムズアップをして見せた。


「だいじょーぶ!私が社交界編の棒読み&棒演技もしっかり見させてもらうから!」


目的はそれかい……いやまあ、死んだ魚の目から解放された後に愚痴りたいからタマちゃんがいてくれると助かるけどさ。


という感じで私とタマちゃんは無事?に一年生の冬まで過ごしてきたんだけど…私は一年のクリスマスパーティーの当日、パーティー会場になっている学園の中庭から少し離れた、温室の中でディリエイト殿下に跪かれていた。


何がどうしてこうなってるの?


「シャリアンデ…私の恋人になってもらえませんか?」


え~と……


「殿下、寝てます?」


「起きてる」


え~と……


「私と殿下はすでに婚約者同士ですが?」


「それは国が決めた政略婚だ。私は私個人の気持ちとしてシャリアンデと愛を育みたいと思っている」


あ………私、悪役令嬢なんだけど?その私と恋人同士になりたいと?


困ったなぁ……嫌じゃないんだよなぁ……今、嬉しいと思っちゃってるんだよなぁ


私は、跪いているディリエイト殿下を見た。


あ………駄目だ、私この人の事好きだ。私は殿下に手を差し出した。


「宜しくお願いします…」


「シャリアンデ!!」


ディリエイト殿下は立ち上がると、私を抱き寄せた。そしてキスしてきた。ああ…ディリエイト殿下とキスしている。柔らかい唇…先程飲んでいたストロベリーシャンパンの味がする。生々しい…


チュチュ…と口付けをされて、思わず雰囲気に流されそうになったけれど、外は嫌だ!まだ早い!とかなんとか言って温室の中で本番はなんとか避けた。


「まだ学生です!」


「でも婚約者だろ?」


ここで婚約者権限を振りかざしますか!?


私とディリエイト殿下はまだ早い!婚約者だ!を繰り返しながら…そこそこイチャイチャしながら順調に二年生の夏を迎えていた。


そして二年生の夏に驚きの事実が発覚した。


「えぇ!?ビィルブ様とタマちゃん付き合ってるのぉ!?」


私とディリエイト殿下に感化されたとか、上手く言っていたけれど私とディリエイト殿下と一緒に行動していると必然的にビィー様もタマちゃんも一緒にいる機会も増える訳だから仲良くなるのも頷ける。


「はい…それでシャリアンデ様にお願いが御座いまして…このままリアシャと共に生きていく為には身分の壁がありまして…」


ビィー様の説明に大きく頷いた。


うんうん…そうだね、タマちゃんは子爵家でビィー様は侯爵家だよね、身分違いでお付き合いや婚約…婚姻はかなり難しい。いや…絶望的といってもおかしくない。


「そこでだ…」


ディリエイト殿下が私に向き直った。


「私からもマカロウサ公爵に打診はするが、リアシャ嬢をマカロウサ公爵家で養女に迎え入れて貰えないだろうかと…」


「タマちゃんが!?」


タマちゃんは泣きそうな顔で私を見ていた。そうだ、その解決方法なら…


「うちにおいで!」


「お姉様!」


ちょっとした芝居のような感じになってしまったが、棒演技ではなく心を籠めてタマちゃんに言葉をかけた後、私はタマちゃんと抱き合った。


そして私とタマちゃんは義姉妹になった訳なんだが…そんな夏休みのある日…


島の別荘の浜辺でパラソルの下にいる殿下からフイに投げられた言葉に仰天した。


「年明けには私もシャリーと婚姻だな~」


なんだって!?


今年の私は白のビキニを着用している。しかも水着をディリエイト殿下自らが着替えさせるという、ビィー様が知ったら破廉恥だと怒りそうなことを殿下はしていたのだが…今年はそのビィー様の攻撃力が鈍い。


原因は分かっている。タマちゃんこと、リアシャに自分好みのオレンジ色のワンピース水着を着せて、ニヨニヨしてしまっている為にビィー様はディリエイト殿下をきつく叱れないのだ。


それはそうと、どういうことだ?


「婚姻がどうとか聞こえましたが?」


ゴロ寝をしながらディリエイト殿下は、私の方を見た。


「え~年明けにはシャリーと婚姻だって…」


「し…知りませんよぉ!?」


「言ってなかったっけ?」


知らないよーー!!


どうやら私は三年生になったらこのゴロ寝殿下と婚姻するようです。実はこのコヨリダ魔術学園の生徒の貴族位の方々の中には在学中に婚姻する人が結構いるのだ。婚姻自体は珍しくはないのだが…私が結婚か、社交界編が始まる前に結婚しちゃうのか…


断罪イベントもないのかな…


そして三年生になって、婚姻して…本当に兆しも無いままに三年生のクリスマスパーティーの日になった。


『愛☆フリシェリアーナ』のゲーム内では悪役令嬢であるシャリアンデ=マカロウサの断罪が行われる日……しかしこの日行われたのは


ビィルブ=シューメル侯爵子息による、リアシャ=マカロウサへの公開プロポーズだった。


大輪の薔薇を持ってタマちゃんにプロポーズをするビィー様は砂を吐きそう甘さだった…この公開プロポーズを見ていた令息達が調子に乗って、当日あちこちでプロポーズを始めてしまい、この日からクリスマスパーティーでプロポーズをすると永遠に幸せになる…というジンクスが生まれたとか生まれなかったとか……


「シャリー、私と婚姻して下さい!永遠に幸せにしてあげます!」


「……永遠は結構です、それに私とディリエはもう婚姻しているでしょう?」


ディリエイト殿下はフニャと笑うと、そうでした~そうでした~と言ってベッドにダイブしていた。


私達はクリスマスパーティーの後、王城の夫婦の寝室で今日の話をしていた。


「もう一度プロポーズしたかったんだよ~今日のビィルブに感化された奴ら多いと思うよ~」


「タ…リアシャ嬉しそうでしたね~」


「あれはかっこ良かったよね~」


優しく頭を撫でてくれるディリエイトの腕の中で…私は泣きそうになっていた。


断罪は行われなかった……私とリアシャは完全にシナリオから離脱出来たのだ。


「シャリー…泣いてるの?」


「リ…アシャが…幸せに…ううぅ…」


「はいはい~良かったね~うんうん」


ポンポンとリズミカルに私の背中を叩いてくれるディリエイトの手の温かさと、彼の腕の温もりに包まれて…私は静かに眠りに落ちた。


いよいよ…『愛☆フリシェリアーナ~社交界編~』が始まります。



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