第七棒

実はね…と、リアシャさんは再び苦笑いを浮かべて話し始めた。


「昨日さ…ミスト様の第二段階のイベントを起こしたんだけど、イベント中はミスト様は私を見て甘く囁いてくれるんだけど、イベントが終わるとさ…何だかぼーっとした後に、こっちを見もしないで歩き去って行っちゃったんだよね。それ見ててさ、強制力で無理矢理イベントに参加させられてるのって私やシャリーだけじゃなくて、このゲームの中に生活している人達全員じゃないかと思えてきてね…気持ちが冷えてきた」


「うん…」


「私、自分が主人公だからイベント起こさなきゃゲームが始まらない…とか、最初は思ってたんだけど実際はそんなことないよね?毎日、普通に学校はあるし、授業も進むし、お腹は減るし疲れるし…」


「そうだね…」


「心の籠っていない迫真の演技を見せられてもお芝居なんだと思えて、ゲームをしていた時より、のめり込めなくなってしまったの……ごめんね、シャリー」


リアシャさんはテーブルに突っ伏した。


「ミスト様のイベントが見たくて、シャリーに嫌な役目をお願いしちゃってた!今日、ディリエイト殿下が怒鳴っているの見て、正直怖いと思ったよ…イベントの度にディリエイト殿下にあんな言葉をぶつけられてたら…心が疲れちゃうよ。ごめんね…ごめん、いっぱい嫌な思いさせちゃってた…シャリー…」


リアシャさんはしゃくりあげながら泣き出した。私もリアシャさんの涙を見てもらい泣きをしてしまった。


それから暫く泣いていたけど、泣き止んだみたいなリアシャさんは笑顔を浮かべると


「っ……あのね、今更だけど…私、本名はカシハラタマキって言います」


と、言った。


「あ……えっとモリゾノリカと申します…名前、タマちゃんなんだね?」


リアシャさんことタマちゃんは吹き出した。


「そうなんだよ、学生の頃のあだ名はタマちゃん、タマちゃんって呼んでよ。私はリカって呼ぶから~」


「うん…うん!」


私達はその時から…ゲームのシナリオから離脱する決意を新たにした。


タマちゃんと綿密に離脱作戦を練った。この間の暴行イベントは恋愛イベントのフラグが立たないまま攻略日数が経っている為に、ゲームの強制力が強引にねじ込んできたイベントだと、私達は結論付けた。


今までにない早さで体の拘束が解けたことといい、怪我なんて穏やか温ゲーのアイフリでは有り得ない状況に、ゲームシステムがエラーを起こしているんじゃないかとタマちゃんは確信したと言っていた。


「このまま私達が、フラグ折りまくっていたら、年末のクリスマスイベントが不発に終わると思わない?」


「あっ!そうか、年末のクリスマスイベントはハーレムルートだと攻略キャラの皆でパーティーだよね?好感度が一番高いキャラと個別パーティーイベントもあるけど…」


タマちゃんはにやりと笑った。とても主人公のする微笑みとは言えなかった…


「アイフリの一年目ってハーレムルートだとクリスマス描写もサラッと終わってなかった?だからフラグ折っとけば、もっとサラッと終わると思わない?」


タマちゃんの言葉に攻略ノートに書き込みを入れた。


「そうだねっそうだよ…確か二年生になってから彼氏彼女状態になるから、それまでのイベントは友達デートみたいな感じだったね、クリスマスもそんな感じかも」


タマちゃんもノートに書き込んでいる。


「付き合って下さいってイベントは早くて、一年生のクリスマスイベントからだよね?三年生になると最後のクリスマスイベントは『結婚して下さい』だしね。ね、知ってる?二年生のクリスマスイベントでも、交際申込イベント起こせるんだよ?」


なんだとっ!?タマちゃん情報に驚いてしまった。


「一気に好感度を上げるイベントがバレンタインデーがあるじゃない?」


「あるね」


「実はね〜…」


とか話しながらつい、攻略話に脱線してしまったのも友達ならではだな〜とその日はタマちゃんと一緒に夕食まで頂いて楽しくお話ししたのだった。


そうして、次の日から私とタマちゃんは恋愛フラグを折りまくった。出来るだけイベントを起こさないようにして、踏ん張って……そして数カ月後、夏の季節になった。


「夏…と言えば海のイベントがあるけど、これは好感度が高ければ攻略キャラから旅行に誘われるんだったよね?これ、どういうことなの?」


私は対面に座るタマちゃんに思わず聞いてしまった。タマちゃんも首を捻っている。


「いやぁ私に聞かれても分からんし?でも…明らかに私達のフラグ折りの効果が出て来ているね」


そう、タマちゃんとせっせと攻略キャラとの恋愛フラグを折っていると…その間にディリエイト殿下と私の仲が急接近したのだ。


私が勝手に攻略キャラだ!と構えていただけなのかもしれないが、ディリエイト殿下は意外にも冗談を言うことが多いし、ツッコミのビィー様と天然ボケのディリエイト殿下という異世界漫才がいつも私の前で繰り広げられるようになったのだ。


見た目はキラキラした王子様のディリエイト殿下だったが、付き合ってみると案外と出不精で面倒くさがりで、用事が無ければ寝ていたい…と豪語する中身が残念王子だと分かってきたのだ。


私に対する言葉遣いも段々と砕けた物言いになってきた。


「本来はこんな感じなんだ…シャリアンデの前では頑張ってた」


そうですか…私も完璧なパーフェクト王子様だと思ってましたわ。


恥ずかしそうに私に告白してくれた、ディリエイト殿下は思っていたより可愛いね…銀髪だからクールな人って誰が決めたんだ?私か……とにかく見た目で判断しちゃ駄目だね。


と言う訳で、天然ボケ王子と姐さん気質の私は非常に馬が合ったようで、婚約者同士だけど親友?のような付き合いをするようになったのだ。


ところが、そんな私に振って湧いたかのような夏のイベントへの参加要請だよ。ディリエイト殿下が私を王家所有の島の別荘に招待したいと言い出したのだ。そんな旅行は好きな女の子と行ってよ~


あ、好きな女の子になる予定だった人は恋愛フラグを折りまくっていたんだったね。


「で…どうするの~?」


「殿下からのお誘いなんて断れないもの…行くしかないんだけど、着て欲しい水着をプレゼントされてしまったのよ…」


タマちゃんは驚いたのか、前のめりになった。


「着て欲しい水着!?」


「しかも黒のビキニ…」


「巨乳に黒ビキニ!リカ、エロいね!」


タマちゃん…はピンク色のワンピース水着が似合いそうだね。


と言う訳で、何故かディリエイト殿下と別荘ですよ。本当なら主人公とのイベントが目白押しなメインヒーローが悪役令嬢の私と二人きりの別荘ですよ。厳密にはメイドさん達とか侍従や近衛のお兄様達も一緒なんだけど…


「天気がいいな〜浜辺でごろ寝が気持ち良さそうだ」


出た…早速、怠惰に過ごします宣言だ。


ディリエイト殿下はラフなチノパンにポロシャツという、王子様なのに世界観無視の服装で、待ち合わせ場所の王宮の転移馬車乗り場に現れた。


この世界は魔法で移動するのが常識で、手ぶらでそのまま移動も出来るが、王族ということで体面を保つ為に馬車に乗って馬車ごと転移する方法を取るらしい。まあ、荷物も多いからね。


「水着持ってきた?」


「……はい」


ニヨニヨ笑いながら聞いてきたディリエイト殿下。エロオヤジなのか?王子様の品格が下がるのでオヤジ発言はやめて欲しい。


そして馬車で移動して…船に乗って着いた島はもしかして無人島なのかな?というくらい浜辺も海もとても綺麗だった。


「綺麗っ!泳ぎたい!」


「静かだな~よく眠れそうだ…」


「…」


このゴロ寝殿下をなんとかして欲しい…今は突っ込んでくれるビィー様が不在な為に、天然ボケと怠惰が大渋滞のままだ。


着いた早々に昼寝をしようとしたので、何とか叩き起こして浜辺へと出て来た。


「眠るのは夜に取っておいて下さい!」


「ええ…日の高いうちから眠るのが最高なのに…」


「知ってますよ!起きなきゃな~と思いながらのうたた寝は最高ですよね」


お互いに水着に着替えてテラスに出て来た。テラスから直接浜辺に降りて海に行けるようになっているのだ。プライベートビーチだね!


「…シャリアンデ」


ディリエイト殿下はテラスに出て来た私を凝視している。私に何か文句を言うのかと身構えていたけれど何も言ってこない…?


怪訝な顔をしてディリエイト殿下を見上げると、ディリエイト殿下が叫んだ。


「黒い水着エロイ!」


ホント…やめて…私の中のディリエイト殿下の好感度がガタ落ちだよ。


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