第六棒
女子寮で私とリアシャさんはその日に起こったイベントの報告会を開いていた。
突如として起こってしまった殿下とビィー様の同時イベントはどうやら、私がビィー様に連れて行かれる所を目撃してしまったリアシャが私を心配して、男子寮の近くまで近付いてしまった為に、ゲームの強制力が働いてしまったようで、イベントが強引に始まってしまったようだった。
「あの分岐イベントってハーレムルートの時に、各キャラの好感度をまんべんなく上げている時に起こったイベだったと思うんだ」
リアシャさんの言葉に頷きながら、自作の攻略ノートにイベントを書き入れていく。リアシャさんもノートに書き込みながら苦笑いをしていた。
「いきなり体が動いてディリエイト殿下の部屋に突撃しちゃった時は慌てたわ~殿下ってばシャリーに馬乗りになってなかった?もしかしてお邪魔だった?」
「ちょっ…リアシャさん!ビィー様だって同じ室内にいたでしょ!もうっ…殿下がね、ゲームの強制力が魅了魔法に似ているって言い出して、ちょっと問い詰められていた時だったんだ、なんだかリアシャさんが魅了魔法使ってるって勘違いしているみたいで…」
リアシャさんは仰け反って驚いている。
「ええっ!?私ぃ?ただのゲームの強制力だってーの!でもねぇ…確かにあれは怖かったわ。ほらさっきのイベント…私が逃げた後にディリエイト殿下とビィー様のふたりが走って追いかけてきたじゃない?あの超人的な運動神経を持つふたりに、追いかけられて死ぬかと思ったわ」
「そ、そうだね、そう言えば殿下とビィー様って運動神経も抜群って設定だったね。そりゃ怖いね…そう言えば、ビィー様が戻って来なかったけど結局、ビィー様に捕まったの?」
「ううん~部屋を飛び出して、すぐに正気になったんで魔法を使って女子寮の中のトイレに転移して隠れてた」
ふああっ!さっすが主人公、転移魔法も使えるのか!
その後、リアシャさんの方のイベントの進行状況を確認してその日の報告は終わった。
そして次の日、学園に登校して驚愕した。いつも私の事なんて無視しまくっていたディリエイト殿下が朝から私に近付いて来たのだ。
「おはよう、シャリアンデ!」
「……おはようございます?」
ディリエイト殿下…朝から変なもの食べましたか?
どうやら殿下は昨日の衝撃で(魅了魔法云々)私への距離感がおかしくなってしまったようだ。そりゃあ元々同じクラスだったし、教室の中で近くに居ても……おかしくはないが…休み時間まで近付いて来るし…
いつもは挨拶程度しか接触して来ないはずの殿下が私に引っ付いて来るうえに、リアシャさんを完全に敵視しているのか、リアシャさんが近付く度に警戒して睨みつけている。おまけにビィー様までもが一緒に睨みつけている…やめてくれ。
リアシャさんはディリエイト殿下に睨まれてしまって、遠巻きに私達を見ている。リアシャさんを殿下の前に連れて行って説明しようとしても、ハーレムルートのイベントが発動する危険があるからリアシャさんは近付けない。
リアシャさんと話しをするのは放課後、女子寮に帰ってからにすることにした。
それにしてもディリエイト殿下めっ…つい先日までは私のことを羽虫を見るような目で見ていたくせに、休み時間の度に私の所に来て周りを威嚇するし、食堂でランチを食べている時も、ビィー様とふたりして私と同じテーブル席を陣取り、周りを威嚇。
くそぉ…いつもはリアシャさんと仲良くランチ食べてたのに、殿下とビィー様がいるからリアシャさんと一緒に食べれないじゃないか!
「殿下…」
「なんだ?」
「朝から気になっていたのですが、何故そんな鋭い目で周りを威嚇…いえ、見ていらっしゃるのです?」
ディリエイト殿下はグルリと視線を動かした後、クロワッサンを千切って口に入れた。
「どこから魅了魔法を仕掛けられるか分からないだろう?」
「ですから、それは魅了魔法ではないと申し上げているではありませんか」
「何故そう言い切れる?リアシャ=メイデイ子爵令嬢は確かに何か不可思議な異能を使っている。それは特定の人間にしか効かない。シャリアンデも昨日は様子がおかしかった。意識阻害ではなく、身体拘束系の術をかけられていたのでないのか?」
殿下ってばさすが攻略キャラだ鋭いっ!でもちょっと違う…あれは強制力だし、魔法とは根本的に違うからぁ
「兎に角っリアシャさんは違います!」
「…っ!やけに庇うな…?私の発言よりリアシャ=メイデイ子爵令嬢の発言を是と取るのか?」
ディリエイト殿下の魔力がグワッと膨れ上がった。食堂全体の魔圧があがって、食堂で昼食を取っていた生徒が緊張しながらこちら見ているのが分かった。
その時、リアシャさんが私達の座るテーブルに駆け込んで来た。
「シャ…シャリーの言っているとおりです!私っ魅了なん……て…ぁ…」
「!」
あばばっ!?リアシャさんの瞳から光が消えたーー!死んだ魚の目になっちゃった!…っは!ということは…!?
急いで隣の席を見ると……ディリエイト殿下もビィー様も死んだ魚の目になっていた!!
「ひどいわっわたしがなにをしたというの!?」
あわわっリアシャさん棒読み演技が急に始まった!?
私も既に体が硬直していて動かなくなっていたが、急に肩を掴まれて強引に後ろに引っ張られた。
「っい!!」
「シャリアンデッ!どうしてリアシャを追い詰めようとするんだっ!君には品性というものが欠けているようだなっ!」
「!」
殿下に痛いくらいに肩を掴まれて、本気の怒鳴り声にまた体が委縮する。強制力により硬直していた体が、殿下に肩を押さえつけられたことにバランスを崩して、テーブルの上に上半身が倒れ込んでしまった。
「…っ!」
地味にぶつかった肩と顔が痛い。食器に顔から突っ込むなんて初めてだ。
私の体に当たった衝撃で、食器が割れる音がする。周りの生徒達の悲鳴が上がり、手と肩の痛みのせいか、体の硬直が解けていたことに気が付いた。
「シャリー!!」
リアシャさんも体が自由に動くようになったみたいだ。
「シャリアンデに触るなっ!」
「!」
ディリエイト殿下も正気に戻っていたみたいだった。リアシャさんに怒鳴りつけた後、私をぎゅうぎゅうに抱き締めてくる。殿下の体が震えている?
「すまない…すまないシャリアンデ…」
殿下は小さくそう呟いていた。
あの…すみません。肩と顔がめっちゃ痛いんですけど…
放課後…
女子寮の私の部屋にリアシャさんを招いた。リアシャさんはすごく落ち込んでいた。
「本当にごめんなさい…」
私はお茶菓子をリアシャさんの前に出して、リアシャさんの背中を撫でた。
「包帯巻かれてて見た目は派手なんだけど、ちょっとした肩の打撲だけだよ?しかも殿下に押された怪我だし!リアシャさんは悪くないよ?」
そう言って、涙を零しているリアシャさんの肩を擦ってあげた。
「そうだ、さっきまでディリエイト殿下達と一緒だったんだけど、また魅了魔法だー!とか騒いでたよ。あまりに疑うから、殿下には再度説明しておいたけど…」
「ありがとね。ディリエイト殿下に進言してくれて…逆にシャリーが殿下にご不興を買わないか心配だよ…」
「あはは…私は悪役令嬢だし、ぶっちゃけゲーム開始前から不興を買っているようなものだしね?」
リアシャさんは苦笑いを浮かべている。お互いにお茶を無言で飲んでいたが、思い切って私から声をかけてみた。
「今日のディリエイト殿下のイベント…リアシャさんは覚えてる?私どのイベントなのか全然分からなくて…」
そう、アイフリージャ…アイフリをこよなく愛する私だが、今日起こった悪役令嬢に対するディリエイト殿下の暴行イベントが全然思い出せない。そもそも暴行なんて穏やか温ゲーのアイフリにそんな描写あったかな…
するとリアシャさんも首を捻って考え込んでいるようだ。
「う~ん間違ってるかもしれないけど、あの台詞はどこかのイベントで聞いたことあるような気がする…でもイベントは学食でだったかなぁ?それにシャリアンデが怪我をした描写はなかったよ、それは確実!」
「だよね!じゃあ…私の怪我はイレギュラーなことで、シナリオ破綻を起こしたってこと?」
リアシャさんは怖い顔を見せた。
「…ねえ、あくまで推測だけど意図的ではないけど、私達がシナリオではない想定外の動きをしているよね?その度に修正力とでもいうのか、予定通りにシナリオを起こそう起こそう…っていう強制力もかかってきているような気もするよね?」
「う、うん…そうだね」
そうイベントはリアシャさんが攻略キャラ達に近付くと、強制力で発動している…が、私もリアシャさんもリアシャさん最推しのミスト様以外のイベントは初期段階から…
恋愛フラグを折ってきている…
リアシャさんを見るとリアシャさんは頷いた。
「地味だけど…じわじわと効いて来てるんじゃないかな…だって今日のイベント、途中で体が動いたし、意識がすぐに元に戻ったんだよ、こんなこと初めてだよ」
「そうだった…ホントだ!私も怪我した辺りからすぐに体が動いたよ」
「そうそう、ディリエイト殿下達もすぐに普通に戻ってた…やっぱりシナリオ破綻…起こってるんじゃないかな?」
私達というバグが少しずつシナリオに影響を与えて…もしかするととんでもない破綻がやってきているかもしれない…と思い始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます