第五棒

「シャリアンデは…リアシャ=メイデイ子爵令嬢と親しいのか?」


ディリエイト殿下に聞かれて何も考えずに


「はい、仲良くさせて頂いてます」


と、答えてからディリエイト殿下のこちらを見る目が、とんでもなく鋭くなっているのに気が付いた。


え?なんで?仲が良かったらいけないの?


思わず首を傾げて考え込んだ。


あ…っ!そうか、リアシャさんは主人公で、一応ハーレムルートのフラグも折れてないから、ディリエイト殿下の中ではリアシャさんは大好きな女性だから、悪役令嬢の私と仲良くして欲しくないんだね!そうか~いや~でも困ったな。


「何か異変は無いか?」


「え?」


予想もしない言葉をディリエイト殿下から投げかけられて、変な声を出してしまった。ディリエイト殿下は傍で控えている、ビィー様に視線を一度向けてから


「リアシャ=メイデイ子爵令嬢の側に居る時に意識が朦朧とするような感じなのだ。ビィルブに聞いたら、ビィルブも以前中庭でメイデイ令嬢と会話をしていたはずなのに、気が付いたら教室に戻っていて中庭での会話が…こう何と言ったかな?」


そう話して、再びビィー様を見た。見られたビィー様は真っ直ぐに私を見て


「魅了魔法にかかっている時に似ていました」


と言った。


「魅了魔法!?……し、失礼しました」


思わず声を上げてしまって、慌てて居住まいを正した。


確か…魅了魔法とは術をかけられた者は、術者の意のままに操られてしまい術の効果は何度もかけ続けられていると、半永久的に術の虜になってしまう…と言われている。


でも待てよ?リアシャさんと居る時に意識が朦朧としているのは、ゲームの強制力であって…魅了魔法なんて恐ろし気なものではないはず?


そんなこと言うなら私とリアシャさんなんて、世にも恐ろしい棒読み化の魔法にかかっちゃっていると言ってもおかしくないよね?


でも、強制力と魅了魔法じゃ違うと思うんだけどな…それに魅了魔法って確か…


「あ…ですが、魅了魔法は…魔力抵抗値の高い方には効かないのでは?」


私の言葉にディリエイト殿下もビィー様も、顔を見合わせている。


「そうだ…私以外に王族筋の者は皆、高い魔力抵抗値を所持している。のだ…だから私は疑っているのだ、リアシャ=メイデイ子爵令嬢が何か特殊な魅了魔法を使っているのでは…と」


そっそっち~!?そっちを疑ってるの?いやぁだって主人公だよぉ~だってリアシャさん自身にも棒読み化の呪い(強制力)がかかってるのにぃ…悪役令嬢の私を疑うのならいざ知らず主人公を疑うなんて……はっ!!!


これ…よくある展開じゃないかな?


敵だと思って警戒して、近付いて行っていつの間にか絆されて両想いってシナリオじゃない!?今回イレギュラーな私とリアシャさんの行動のせいで、出逢いイベントとかその他にイベントが、リアシャさんの熱い希望によりミスト=アイエデーダ伯爵子息との絡みイベントばかりを起こしていて、今リアシャさんはミスト様ルートを爆走中だ。


「で…でも私は魅了魔法にかかっている気はしないのですが…(体の自由は奪われますが)意識はしっかりしていますし…」


ディリエイト殿下は更に目を鋭くした。こんな怖い顔もするんだ…


「ん…もしかすると、同性には効果の無い魅了魔法なのかもしれない…」


「そんな魅了魔法があるんですか!?」


驚いてしまってまた、大きな声を上げてしまった。


やっぱり淑女らしからぬ動きと発言だったのだろうか…私の対面のソファに座っていたディリエイト殿下が立ち上がると、私の傍まで近付いて来た。


「シャリアンデ…どうも最近の君はおかしい。あの編入生のリアシャ=メイデイ子爵令嬢に何かされたのか?」


「何かって…?」


ソファに腰かけている私に更にグイッと顔を近付けてくる、ディリエイト殿下。


綺麗な顔が近すぎですぅぅ!


「弱みを握られたり…何か脅しかけられているのではないか?」


何故そうなるんだーー!脅しかけられているのはゲームの強制力の仕業だよ!


その時…体が動かなくなった。


な……に?これは……もしかして、私に顔を近付けているディリエイト殿下の瞳を見た。虚ろな目だ、死んだ魚の目だったーーー!!


「お前……リアシャに何をしたんだ?」


「…っ!」


ひえええっ!?いきなりの迫真の演技が目の前で繰り広げられている!!…けど、これどこの場面?どこのシナリオなの!?


その時、部屋の扉が開いた。そして…


「ディリエイトでんか、シャリアンデさまはなにもされていません!わたしがいけないのです!」


ぐはああっ!?リアシャさんの棒演技が炸裂!?


私は先程ディリエイト殿下に近付かれていて、ソファの上で妙な姿勢で仰け反っていたので、とうとう突っ張っていた腕の力が尽きて、ソファにゴロンと寝転がってしまった。


流石、ゲームの強制力は悪役令嬢が寝転んでいても、棒演技は続けてくれるようで、勝手に口が動いて行く。


「そうですわ!ディリエイトでんかをあいしょうよびでよぶなんてふけいなふるまいをするなんてっ!きぞくしじょとしてのれいぎがなっていませんわ!」


私ってば久々の棒演技と棒読みをしてしまったわ…寝転んだ姿勢ですみません…


「シャリアンデッ!君は本当に冷たいな。編入してきて心細いリアシャの気持ちを考えてやれ!」


「…!」


間近でディリエイト殿下に怒鳴られて、驚いたのと怖かったことで思わず涙が零れた。


「わたくしはきぞくしじょならばとうぜんしっているべきことだと、おしえただけです!」


「や、やめて!もうあらわそわないでっ」


「リアシャ!」


「リアシャ嬢!」


リアシャさんはそう言いながら部屋を飛び出して行った。するとディリエイト殿下もビィー様までもが、リアシャさんを追いかけて部屋を飛び出して行ってしまった。


「…っひ…く…」


三人がいなくなって体が動くようになったので、ソファに座り直して…零れ落ちる涙を拭った。


怖かった…当たり前だけど、男の人に本気で怒鳴られたことなんて前だってこの世界だってほとんど経験ないものね。あれはシナリオ通りの演技だと分かっていても怖かった。


まだ体がガタガタと震えている。


なんとか涙を拭いてソファから立ち上がろうとして…扉の方を向くと、茫然としたまま立ち尽くしているディリエイト殿下がいた。


なんとなく…だけど、シナリオはもう終わっているみたいだと思った。


「シャリアンデ…」


殿下はふらつきながら私に近付いて来た。


「私は……先程、君を怒鳴りつけていなかったか?意識が朦朧として…何かを怒鳴りながら、君に馬乗りになって首を絞めていなかったか?」


なぁに!?首絞めはナイナイ!…と反論しかけようとして、先程まで恐怖で震えていた為か、反論しようとした声が詰まって思わず咳き込んでしまった。


「シャリアンデッ!?」


殿下が叫びながら駈け込んできて、私を抱き締めてきた。


ぎゃああ!!!ディリエイト殿下に抱き締められている!?


「私は朦朧として…また魅了魔法にかかっていたのだな!?そうしてシャリアンデの首を絞めようとしてしまったのだな!?」


「ちっ…ゴホッ…ちがいま…ゲホッ…大丈夫です、本当に違います…ゴホ…大丈夫です!」


抱き付いてくる殿下の背中を少し強めにベシベシと叩いた。


するとディリエイト殿下は拘束を緩めてくれた。殿下の瞳を覗き込むと、死んだ魚の目じゃなかった!


「確かに何か様子はおかしかったですが、首は絞めたりはされていません、大丈夫です」


ディリエイト殿下は泣きそうな顔をされていた。


意識が朦朧とする…と言ったけれど断片的にシナリオ演技とでも言うのかな?をしている時の意識は残っているみたいだった。確かビィー様は記憶がすっぽりと抜けていた…とも仰っていたし、強制力の掛かり具合?は個人差があるのかもしれない。


「シャリアンデ…私は恐ろしいよ。いつまた意識が朦朧とし、もしかしてもっと酷い錯乱状態になって君を襲うかもしれない」


「い…いやぁ~?それはどうでしょうか…」


確かディリエイト殿下から、肉体的に暴力を振るわれたというような描写はゲーム中になかったはずだ。何度も言うようだが、この『愛☆フリシェリアーナ~学園編~』は穏やか温ゲーだ、社交界編になったら主人公がドレスにお酒をぶっかけられる描写があったように記憶しているけれど、そんな程度だ。


ましてや私は悪役令嬢だ、危ないことはなかった…はず。若干自信は無い。だってさっきのイベント全然記憶にないんだもん。あんなソファに押し倒して……ん?いや、待てよ?主人公から目線で考えて見ると…ああっ!あったよ、あのイベント!


主人公のリアシャに注意をしたシャリアンデの態度を見かねてディリエイト殿下が呼び出して苦言を呈するイベントだ。


そうだ、そうだ…思い出してきた。そしてディリエイト殿下が言い返してくるシャリアンデを怒鳴りつけてそれを聞いたリアシャが止めに入って、泣きながら逃げたんだった。


そして好感度の差でディリエイト殿下に追いつかれてイベントに突入のバージョンとビィー様に追いつかれてのイベントの選択イベントだ。リアシャが隠れる場所によって見付けてくるキャラが違うんだった。


「シャリアンデ…すまない」


え~と今、ディリエイト殿下がここにいるってことは、先程のイベントはビィー様ルートになった…ということでしょうか?









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