人助け。①

「はーい、春休みのレポートの説明をしまーす」


そんな言葉を前置きにべらべらと担任が春休みのレポートの説明を俺たち生徒に向けて話す。

正直、教師たちの話の内容など全く入ってきやしない。皆無だ。

ってかなんで春休み、〝休み〟だというのにレポートとかいう到底休ませる気のないような課題を出すのだろうか。

〝休み〟という言葉を借りているからにはもう少し休みらしくしてくれてもいいのではないか? それを言ってしまえば、夏休みだって冬休みだって同様なのかもしれないが……。

んで、こんなふうに俺は高校生になっても永遠に抜けそうにない中二病チックな大人に対しての反抗をしているうちにとっくに担任の長話も終わってしまっていた。


「カンちゃ~ん、明日から春休みだけどなにか予定はあるの~?」


俺の幼馴染の恵李の声だ。

もう俺の幼馴染という前置きはいらないかもしれないが、こいつの声ははっきりと聞こえる。

むしろ聞きたい。


「相変わらずだが、予定など入ってないぞい」


なんで俺は偉そうに言っているのだろうか……。


「ん〜、じゃあまたお家遊びに行ってもいい~?」


俺は即答する。


「もちろん! いいぞ~」


実は俺あの後、これから誰が来てもいいように部屋を片付けたんだぜ。


「カンちゃんっ! この前のあのチューしてたかわいい子はいっつもいるの? 」


〝チューしてた〟は余計な情報だ……。

まあ、あいつらは家に住み着いているのだからいずれバレるだろうから、


「うん、いつもいるなぁ……」


シンプルに事実を言った。


「ふむふむ、カンちゃんの家には居候してるかわいい子がいるという事ね! よし! 私、居候さんのためにご飯作るね!」


うーん、絶妙な感じではあるが一応伝わっている……。



「よーし、レッツゴー! ゴー!」


恵李が俺の前まで来てスクールバックを振り上げて言った。

今日、恵李とどっか行く約束なんてあっただろうか……? と軽く考える。


「ん? カンちゃん? 家まで案内してくれるんじゃないの?」


行ったことあるだろ。


「って、家来るって今日だったの!?」


「ま、まあ春休みにももちろん行くけどねぇ~」


今年の春休みは去年の春休みとは少し違った理由で忙しくなりそうだ。



「ただいま~」

「おっじゃまっしまーす!」


恵李は俺の新居……といっても1年は経つが、まだここに来るのは2度目のはずなのに馴れ馴れしくベットに勢いよく飛び込んだ。

すると、


「なになに、今日もあなたが来るだなんて聞いてなかったわ」


出てきた出てきた。

今日もキス魔のショコラさん出てきましたよ。


「あ~、勝手におじゃましちゃってます~! 迷惑だったらごめんねっ」


こいつにはまともに答えなくても大丈夫だと恵李にツッコんでやりたいが、こういうところに育ちの良さというのは出るのだなと謎に感慨深く思う。


「大迷惑だわよ!」

「おいっ、それはよせ!」


俺が被せて阻止すると、普段の俺よりもマシな顔だったがショコラは少し表情を歪ませる。それと同時に口を噤んだ。

お前は来客だと言うのになんつー対応をしているんだ。

しばらく黙っとくがいいぜ。


「ごめんな、ほんと家のヤツが」


「ううん、大丈夫。さあ、とりあえずお買い物に行こ」


「お、おう。俺も着いていくぜ」


黙ったままショコラも静かに着いてこようとするが、俺は目で着いてくるなと訴えた。

この時、一瞬ショコラの瞳にいつもより潤いがあったように見えたが気のせいだと思いそのまま家を出ていった。

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