新婚生活トライアルキャンペーン①

「カンちゃん、この前はごめんっ! あと、ありがとう!」


謝られても困る。


「嗚呼、あの事はお前は悪くねぇ。で、どうだったんだ? あれ」


恵李がはて? という表情で首を横にかしげる。

その、あれというのは恵李が告られたという話のことだ。

もしかして、覚えてないのか?


「あっ、あのことねぇ~! 教えてあげるからこっち来てっ!」


良かった。覚えてたようだ。

で、今日は珍しく恵李リードされる。

着いた先は学校の屋上だった。

なんか俺が告られるみたいで恥ずかしいのだが。


「よし、カンちゃんっ、ここ座って」


「お、おう」


「きちんと私の目を見て話を聞くんだよ」

「へっ」


いきなり俺の手をぐいっと掴んで俺に目線を真っ直ぐ合わせてくるもんだから、思わず声を出して驚いてしまった。


「落ち着いて聞いてね」


なかなか始まらねぇ


「いいぜ、始めてくれ」


少し間を開けて恵李がやっと口を開く。


「きちんと断れたよ! 断れたんだけど……。やっぱり1週間限定でお付き合いをして欲しいって言われちゃったのぉ……」


なにやら学校一のモテ男はそれなりに粘りが強いらしく、恵李が断っただけでは諦められないみたいだ。

これは長い戦いになりそうだ。


「1週間頑張ってこいよ」


「がっ、がががが頑張る! けど、カンちゃんっ! 私はカンちゃんのお嫁さんなんだからね!」


「はいはい、わかったぜっ! お嫁さん」



「俺の嫁に手を出すような事をしたら……」


家に着いてぼーっとしているうちに口に出してしまっていた。

嗚呼、こんなのまたショコラにツッコまれてしまう。


「俺の嫁に手を出すような事をしたら……の先は? なんなのかしら」


思っていたツッコみと少し違う気がするが……


「俺がカチコミに行く」


「アッハッハッハッハッ! あんた何言ってんのよ! あんたがカチコミ!? 出来るわけない」


超バカにされた。

だが、直ぐにコホンッと咳払いを一回して気を取り直してショコラは続けた


「んな事はどうでも良くって、あんた! あたしをこの1週間の間だけあんたのお嫁にさせてくれ!」


これまた思っていたのと違う方向性のものが来た。


「嫁って何をするのかわかってんのか?」


「まあ、いわゆる〝ママ〟みたいな事をすればいいんでしょ?」


言いたいことは分かる。

うちには子供はいないがそんな感じだろう。


「ちょっと違う気もするがそんな感じだ」


「あんたはそれでいいの? あんたがいいって言わなくてもあたしは今週いっぱいは嫁をする予定はあるのだけれど」


なら、俺が承認しといた方がこっちもいい気がする。


「ま、それでいっか」


すると、部屋のドアが空いた。


「すこーしだけ、ドア越しで聞いてました! じゃあ、私は今日からカンタさんのギリギリの妹なんですね! よろしくお願いしますぅ!」


それをいうなら義理の妹だな。


「そっ、そうね! なんだかこれはこれで新婚生活が始まるみたいで面白いわ!」


俺は今キス魔と共に生活を送っているという一風変わった生活スタイルだが、これによって十風ほど変わったと思われるキス魔との新婚生活トライアルキャンペーンが始まったのだった。

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