お悩み相談室でも取り合い戦!?①


『今からカンちゃんの家行ってもいい?』


メッセージアプリを開くとほぼ同時タイミングで恵李から連絡がきた。

ダメではない……ダメでは無いのだが……と迷っているうちにメッセージがもう1件増えていた。


『相談に乗って欲しいだけなの』


一切、顔文字などがないため文面から多少なりとも真面目さが伝わってくる。


『相談乗ってやるよ、来るのゆっくりでいいからな』


俺は片付けをしたいという自分勝手な理由を裏付けした『ゆっくりでいいからな』というメッセージを返した。

多分、気づかれたりはしないだろう。

ひとまず片付けを始めよう。

ちゃぶ台の上にあるポテチのゴミを捨てる。

お金をどっから出しているのか未だに不明瞭だが、ショコラはあれから毎日のようにポテチを買ってきてはもしゃもしゃ食べている。

ゴミくらい捨ててくれ。

次にベッドの下のエロ本チェック。

きちんと表紙が見えないように積んであるか。

すると……、


「ん? なになに? エロ本新調? 」


ショコラが暗くて狭いベッドの下で寝っ転がって俺のエロ本を読んでいた。

俺の存在に気づき、少し驚いてすぐ表情を切り替えた後バカにするような口調で問いかけてくる。

何だこの絶妙なウザさは。


「全くだぜ。新調はしねぇ。ちょいと片付けをしている」


「ふーん、あんたが部屋の片付けなんて珍しいわね」


「いや、客が来るんよ」


「誰」


そんな事聞いてどうする。


「誰よ、おーしーえーて!」


顔が近ぇ。


「いいからはーやーくー!」


「恵李だっつの。そんだけだ」


噂をすれば、



〝ピンポーン〟



「あー、来ちまったよ」


「お、おじゃましまーす……!」


「テキトーに上がってってくれ」


何も無いのは寂しいので、冷蔵庫に入れて置いた、かぼちゃプリンでも出してやろうかと冷蔵庫を開けてみるが……


「誰だーっ! 勝手にかぼちゃプリンを食ったヤツはーっ!」


なんとなく犯人は分からなくもないが思わずキレてしまう。

今日のシフォンはやけに静かだと感じていたが、今キレた時に食器棚と冷蔵庫の間から頭をぴょこんと驚かせたのが見えた。

シフォン、多分お前だな。


「カンちゃん? 1人で騒いでどうしたの?」


嗚呼、やばい。すっかり忘れていた。

恵李がいるんだっだぁ……、


「んなんて気の所為だったぜぇ……あはは……。俺が多分昨日の夜食っちまった……。じゃあせんべいをとりあえずやる」


適当に台所にあったほんのりエビの風味が口に広がる香ばしいせんべいを渡した。


「わぁーい! ありがとー!」


相変わらずのテーマパークではしゃいでいる子供のような口調で喜びを表現する。

よし、そろそろ本題だなっ。


「で、相談というのは……」


「えっ、えっと……あのぉ……」


モジモジしだしてなかなか言い出してくれない。そんなに恥ずかしい事なら俺に相談しない方がいいと思うのだが……。


「あーっ! 恵李さんっていつものドジっ子擬きさんね!」


モジモジしている間に俺の後ろからショコラのベラベラと話す声が聞こえてくる。

そしてやっと、恵李が口を開く。


「実は知らない先輩に好きって言われちゃってね」


「おっ、お前、告白されたってことか!?」


いや、こんな反応を返してしまったが……

こいつは事実上可愛い。

だからされてもおかしくない事はわかる。


「で、でね……」


恵李はゆっくりと一言一言慎重に話し続ける。


「私、明日までに返事をしなければ行けないみたいなの……」


「明日!?」


考える時間を一週間も取らず待てない男……俺にはとてもそいつは、まともな気がしねぇ。むしろ嫌な予感しかしないのだが……。


「でも、お前そいつの事知らないんだろ?」


こくりとサラサラな短髪を揺らす。


「話した事もない……名前も知らない……」


それは困るなぁ。

ってか名前くらい名乗っとけよ。


「どんな人だった? 髪型とかそんなんでいい」


「多分だけどバスケ部の人……。ユニホーム? には……わい、えー、えぬ、えー、じー、あいって書いてあった」


わい、えー、えぬ、えー、じー、あい

とりあえずローマ字表記に頭の中で変換させる。


Y A N A G I


次に頭の中で変換された文字はこれだ。



あー、学校一のモテ男。

一日中家に籠っていて、次の日突然外に出た時のように目が開かないくらいに強くて眩しいスマイルが脳裏に浮かぶ。

少しながらウザい。

いや、かなりウザイ。

なにか裏があるだろうとは薄々思っていたが、まさか告白の結果を一週間も待てないやつだとは思っていなかったぜ。


「あー、俺誰かわかったかもしれねぇ。で、お前はどうなんだ? そいつの事知らないんだろ?」


「うーん、正直なんにも知らないし、まだ怖いなーって思ってる……」


「だが、早く返事を考えねぇとな~」


「でもね! 私あの時に、〝私はもうお嫁さんに行くところ決まってるの!〟って言おうとしたら途中で止められちゃって」


!?!?

それは、まさか俺の事じゃないよな?

名前出てないだけマシだとは思うが、俺ボコされるぜ?


「まあ、そのことはまた言っても止められるだろうから、とりあえず知らないならやめておいた方がいいぞ」


俺は可愛い最高の幼なじみには嫌な目にあって欲しくない。


「う、うん! 私の将来のパートナーが言っているんだから断るべきよね! うん! 私、明日きっぱり断ってきます!」


これは毎回同様で言っても伝わらない。

もういいぜ、俺のところに嫁入りしにこい!

どんとこい!


「とりあえず話が済んで良かった。頑張れよ!」


「うん! 頑張ってくるね!」


また、サラサラな短髪が揺れる。

目を細めて笑う仕草にもグッとくる。

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