素直じゃない。

「カンカン起きなさい!」

「カンタさん~朝ですよ~」


俺はいい加減に聞きなれた二人の声で起きる。

冬休みも明けて今日は登校日なのだが早速寝坊をしてしまった。

どうも目がなかなか開かない。

やっと開いたと思って声が聞こえた方に視線を向けるとまだ視界が曇っていてぼんやりとしているのにやけに輝いて見えるものが目の前にあった。

そいつは、どっかの人妻かのように


「あんたやっと起きたのね。遅いわよ」


と言った。

あんた と呼ばれて直ぐに気づいた。

ショコラだ。

そして、その隣にあるもうひとつの輝きは……


「いっ、急いで学校の準備しましょう! ご飯はショコラさんが用意してくれましたよっ!」


シフォンだ。

まあ、ショコラときたら流れ的にそうだろう。

って、待てよ!?

ショコラがご飯を用意してくれました だと!?


「なぁに、驚いてるのよ! そんな事しているんだったらさっさと着替えて準備しなさい! 」


「いやー、お前が珍しく気の利く事をするもんだからなぁ」


「ま、まあ、たまには得意の料理でも……じゃなくって早くしなさいよ!」


ずっと思っていたがこいつはツンデレだ。

今、一瞬ツンデレのデレの部分が珍しく出た気がするのだが……。


「で、あたしたちがこの姿になってまで起こしに来てやった事に何か言うことないのかしら?」


この姿……? と目を擦ってきちんと視界を改善してからもう一度こいつらの声が聞こえる方向に視線を向ける。


あ、美少女姿か。

(いや、元から美少女ではある)


俺はだいぶこいつらのこの姿にも慣れてきたようだ。

これに慣れてしまうのはなんだか可笑しいのかもしれないが、朝っぱらから見ても特に驚かなくなった。

可笑しいのかもしれないがもう慣れてしまったからには仕方ない。

もう、元には戻りようもないだろう。


「感謝してぇけど……お前に叱られんの嫌だからなぁ……」


俺はしょっちゅう叱られて喜ぶようなほどドM体質では無い。

たまに叱られるくらいが丁度いいのできっとMという特質は持っているだろうけど、〝ド〟という付属品はついてきていないはずだ。


「あっ、あんたは本当に余計なことを言うわねっ! きちんとあたしが作ってきたお弁当を完食してきたら考えるわっ!」


すまないが、その条件で受けて立つ!


「おう!乗った!」



そうして、もちろん弁当は完食して俺は帰ってきた。

味は……悔しいがめっちゃめちゃ美味かった。

文句無しに美味かった!

あれ……? でも俺こいつの料理前にも食べたことあるかも……。


「ただいま! 俺の弁当箱を見たまえ!」


調子を乗りすぎたかもしれないが空の弁当箱を見せつける。



〝チュッ〟



あ、やられちまった。


「お前は相変わらず素直じゃないな」


「それ褒めてるのっ? もう、わかんない! あんたも充分素直じゃないと思うわ! なっ、なにより伝わらない!」


そういうところだ。

キス魔がキスして照れてどうするんだよ。



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