お詫びのキス。
「カンちゃん~! あけましておめでとう~! 今年は私も手伝って黒豆を作ってきたんだけど食べてくれるかな~?」
朝っぱらから、家にいるはずのない人物の声が聞こえて賑やかだと思っていたら年が明けていた。
毎年、俺の実家には幼馴染で隣に住んでいる大里一家(恵李の家族)が来る。
久しぶりに実家に帰ってくるとこの空気が懐かしく思えるけど、案外あいつらがいる限りは俺の一人暮らし生活も寂しいことはないのかもしれない。
そして、恵李には学校で毎日のように顔合わせをしているので全く久しぶりとかではない。
「って、カンちゃん今起きてきたの~! もう9時なのに新年早々お寝坊さんは行けないですぞ!」
恵李は怖さの欠けらも無い声色と表情で叱ってきた。
俺はむしろ可愛いとすら思えてしまえる。
「久しぶりに帰ってきたら寝心地が良くてなぁ~」
「嘘はいけませんよ!」
「あんた土日はいつもこの時間じゃないの!」
実家に来ても今年はこいつらがつきっぱなしだったことを忘れてた。
「カンちゃん一人暮らし初めてから眠れてないのかー! 今度、私が一緒にお泊まりして寝かしてあげる!」
また、この子おかしなことを言いだした。
家族の前で言われると反応に困るからやめてくれ。
「いやぁ、めぐちゃんはべっぴんさんに育ったもんだねぇ~! きっとめぐちゃんがお嫁入りしてくれたらうちのカンタも幸せだわ~! カンタをよろしくね!」
やめろ、その冗談はもうやめてくれ。
俺も一応年頃の男子高校生だ。
「母さん、それはっ」
俺が止めようとしたら話に割り込んで恵李が言った。
「はいっ! 私お嫁さんになれるように頑張ります!」
はぁ、恵李のスイッチを入れてしまった。
恵李、言っとくが俺なんかのところに嫁入りするんだったらお前はもっといい相手を探して結婚するべきだ。相手をきちんと選んでくれ。お前には幸せになって欲しい。
心の中で謎の言葉を恵李に語りかけた。
「だっ、だだだだ旦那様ぁ~! 私の事捨てないでよね~」
俺の肩に柔らかい手の感触がある。
ってか俺誰とも婚約を交わした覚えないのだが。
しかも捨ててねぇよ。
で、今は話しかけんな。
「カンカンなんで無視するのよぉ~!」
「あっ! カンタさん今度はショコラさんの事も無視するなんて酷いですよ!」
うるさいうるさい。
無視じゃねぇから空気を読め!空気を!
こいつらには顔で訴えようと一向に伝わらなさそうなので仕方なくバレないくらいの声量で言うことにした。
「無視はしてねぇ! 言っとくが俺はお前と結婚する予定も控えてねぇ」
「けけけけ結婚の話なんてしてないわよ! カンカンのバカ! シネ! アホ!」
実質言ってたことは結婚と変わらないだろうが!
しかもなんか俺めちゃくちゃに悪口言われたんだけどぉ!?
まあ、こんな感じで今年の初めの1日は終わった。賑やかさは倍増しだったが疲れた。
おい! そろそろ俺に癒しタイムくれてもいいんだぞ! ショコラ! シフォン!
〝チュッ〟
「お詫びよ。ただのお詫び! 勘違いしないでよねっ!」
なんのお詫びかとは聞かないでおこう。
俺は素直にキス魔の優しさを受け取るだけでいい。
「ありがとうなっ」
俺はここで初めてこいつらにきちんと感謝できた気がする。
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