俺の安定剤。

嗚呼、俺は学校であの出来事があってから「大丈夫だよぉ~!」と言われつつも恵李に少し距離を置かれている気がした。

天然じゃすまなくなってきた訳ではなさそうだから多少安心はできるが本当に恵李がいなければ学校での俺はただのボッチと化するのだなと改めて実感した。


「カンタさん、最近元気ないですね……」


ただのボッチと化していた俺の元に天使の囁きが……。

クソ眠い授業のせいで幻聴か何かが聞こえているのだろうか。


「カンちゃんっ! 寝ちゃダメでしょっ! 授業はきちんと受けなきゃ」


次は俺の後ろから別の囁きが聞こえた。


「はっ」


俺は驚きで飛び起きる。

2回目の囁きの主は俺の幼馴染の恵李だったからだ。

ここで謎に距離を置かれている気がしたというのはただの思い込みだったのだと判断してしまった俺はすぐに調子に乗って恵李に言った。


「いやぁ~、昨日寒くて寝れんかったんよ~! 寝かしてくれ~」


「カンタさん! それは流石にまずいですって!」

「ほらほら、起きて起きて」


今、同時に違う声も聞こえた気がするが俺は仕方なく状態を起こして起きている風の体勢をとる努力はしてみた。



今日もさむーくだるーくぼーっと帰り道を歩く。


「カンタさん~、今日ずっと私のこと無視してますよね~」


俺は無心で坂道を下る。

きっと死に際みたいな顔をしているだろう。


「カンタさん~! イジワルです~! なんでそんなに冷たいんですかぁ~! しふぉんのこと嫌いになっちゃったのですか~?」


シフォンが突然そんなことを言い出すから俺は急いで全否定した。

でも、俺冷たくした記憶ないのだが……。


「嫌いになんてなってねぇって! なにいってるんだよ!」


「だってぇ~、今日シフォンがずぅーっと話しかけてるのになんにも答えてくれなかったじゃないですかー!」


あ、まさかのまさかだが……。

あの天使の囁きは幻聴じゃなくてシフォンの声だったのか、納得納得……。


「あ~、あまりにも天使みたいで優しい声だったから幻聴か何かかと思ったぜ、あはは~」


「カンタさん! わたしはキス魔ですよっ! 今日のカンタさんどこか頭の調子が悪いみたいなので家帰ったらかんびょーしますね!」


頭の調子が悪いってそれなんか酷くねぇか!

俺は正常のつもりだぞ?


「まあ、シフォンには悪いことしたからそうしてもらうことにするよ」



そして、俺は今シフォンの膝の上に頭を乗せて寝っ転がっている。

太ももがやわらけぇ!

いい匂い!

これ看病どころが逆に悪化しそうな勢いだぞ。


「はい、頭に傷はないようなので治るかは分かりませんが……」


そんなことを言って、火照らせた顔を近づけてくる。

いや、まてまてまて!



〝チュッ〟



遅かった。

もう、俺の唇は奪われてしまっていた。

俺はある意味キス魔という存在が精神を保つ日常生活において大事で重要な安定剤になっているのかもしれない。

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