第5話 空港

「俺はてっきり、お前は飛行機恐怖症を克服したんだと思ってたよ」

「本当に死ぬかと思ったんだよ」

 着陸の時、坂口は叫んだ。離陸前は鮫を発見したような顔だったが、今度は鮫に片足をかじられていた。当然、隣の女の子は坂口に釘付けである。この時ほど坂口を飛行機に乗せたことを後悔したことはない。せっかく、ちょっと尊敬していたのに、俺の気持ちを返せ。

 内田に告白したことで、全てのエネルギーを使い切ったのかもしれない。結果は——————玉砕である。あまり驚きはしなかった、というところに俺の傲慢さがあるのだろうか。内田には婚約者がいるのだという。どんな慰めの言葉をかければよいのか、と思案していると、坂口は飛行機を降りた途端、トイレに駆け込んだ。泣いているのか吐いているのか、と思ったが、出てきたのはショッキングピンクのアロハシャツを着た阿呆だった。

「ハワイでアロハシャツ着るのが夢だったんだよ」と笑う坂口を見たら、全てがどうでも良くなった。


「あ、俺の出てきた」買ったばかりでつやつやしている坂口の青いスーツケースが、コンベアに乗って流れてきた。坂口は誰かに取られまいとするように慌ただしく、「ちょっとすいません、すいません」と同じような日本人観光客を押しのけていく。

「お前はトンネルを抜けたのか?」俺は呟いた。坂口には聞こえない。

「おーい、お前のももうすぐ出てくるだろうから、こっちで待ってろよ」

坂口が手を振って俺を呼ぶ。そうだ、俺もやっと、トンネルを抜ける。

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ハワイまで6430km @koshian1996

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