第3話
今までの経験では、何かが死にそうになっているはず。それならば、一番可能性があるのは交通事故。そう思って歩道を歩く人を見てみるが、道路に倒れこみそうな人や、突き飛ばされそうな人、猫などの動物もいない。運転ミスをしそうな車もない。こんなに平穏そうなところで死人が出るとすれば、次に考えられるのは自殺。立ち並ぶビルを見上げる。屋上が見えない高さのビルを見るために、わざわざとなりのビルの屋上まで行って見てみたりもした。誰も動けないからビルの警備なんてあって無いようなものだった。僕が悪人だったらどうなっていたのだろうか。
結局、自殺しようとしている人もビルから落ちそうになっている人もおらず、そういえばここは自殺者数が少ない市だったな、なんてことを思い出しながら次の可能性を考える。1つ引っかかっていたことを思い出した。それは至るところにあったデジタル時計だ。今までは1か所にしか出現せず、死人が出るのもその付近だった。しかし、今日は僕の行く所、行く所にあった。
「僕が死ぬのか⋯?」
心の中で発するのが怖くて、つい声に出してしまった。慌てて口元を隠して周りを見回して、ここは止まった世界だったと気づく。無駄に緊張してしまったと思いながらまた歩き出す。目的地はここにくる前にデジタル時計を見た場所。
予想はしていたが、デジタル時計はなかった。つまり、今、止まってる世界とここにあったデジタル時計は関連がある可能性が高い。ここでも、事故に遭いそうな人や動物を探したり、ビルの屋上を見上げたりしたみたが、それらしいものは見つからない。他のデジタル時計を見た場所も回ってみたが、そこもデジタル時計はなく、命の危機にさらされているものもいなかった。
デジタル時計に触れてしまった場所に戻ってきた。誰も動くはずがないので、もちろん、何の変化もない。
世界が止まって1時間経っただろうか。頭をよぎるあの時の恐怖を無視するのも限界に近い。戻れず、独り取り残される恐怖、戻れたとしてもまた眠り続けて、母を心配させてしまうのではないかという不安が押し寄せてくる。欲しくもない不思議な力、歩道を広がって歩いていた人たち、込み合った道を我が物顔で走ってきた自転車、こうなるまでの要因すべてに、だんだん怒りを覚え始めた。
「ぼくが何をしたって言うんだ!!前世の罪とかふざけた理由じゃないだろうな!前世は前世、今は今だ!もしこんな過去にとらわれたようなことをやったのが神だとかいうなら心狭すぎだろ!
それとも、あれか?!よくあるヒーローものみたいに、僕には世界を救える力と勇気があるってか!そんなものがあったら、今こんなふうにばかみたいに叫んでないだろ!!ほんと、見る目がないな!!」
「…誰か、動いてくれよ!!」
神様は見る目がない 深海美桜 @b_blossom
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