第2話
現在、14歳。目を覚ましてからもあのデジタル時計は僕の前に現れた。僕は誰も動かないあの世界に行くのが怖くて見て見ぬふりをしていた。小学5年生のとき、デジタル時計が現れた2日後にデジタル時計が現れた場所で誰かが死んだというニュースが流れた。3回それが繰り返された時点で、デジタル時計を無視することがどういうことか気が付いた。それでも、また止まった世界に自分1人になるのは怖いし、あの時みたいに戻ってきてまた何年も眠ってしまったら、母が心配する。そう言い訳して無視し続けた。今日もデジタル時計が目に入る。
―やけに数が多くも感じるが、いくつ現れようと無視をするだけ―
今日は母との待ち合わせのために東京のオフィス街に来ている。オフィス街だけどショッピングもできるから休日の今日は人が多い。僕の表現は間違っていない。母は休日にもかかわらず、急な仕事が入ったのだ。
約束まであと30分ある。遅れない程度の電車に乗ったらこの時間に着いた。ぶらつこうにも人が多い。よけながら進む。デジタル時計もよける。なぜかいたるところにデジタル時計があるから触れてしまわないようにするのが大変だ。2歳の時以来触れてみたことはないが、触れることで、世界を止めることができる、という予想は間違っていないと思う。また人が向かってくる。一応三角状になっていたらしいが、会話に夢中でだんだん形がくずれて広がってきている3人組だ。それをよけるためにビル側に寄った。4~5メートル先にデジタル時計いくつかが僕の肩の高さに浮いてあるのには気が付いていた。この3人をよけてまた道路側に寄ればぶつからないことも分かったうえでよけたのだが、その後ろにもまた団体がいたり微妙な等間隔で歩く人たちがいてなかなか道路側に行けない。ようやく隙間を見つけて道路側に向かおうとしたら、後ろから走ってきた人にぶつかった。
「すみません」
ぶつかられたのは僕だが、トラブルになりたくないと思い、謝るも何も返ってこない。もしここで同じように「すみません」と相手が返せば、なんとなくその人がいい人に見えただろう。会釈してくれるだけでもまだましだった。が、どうやら、今回ぶつかってきた人はいい人ではなかったらしい。
もう行ってしまっただろうと思いつつ睨みつけてみようと振り返ると、予想に反してそれらしい人物がすぐ近くにいた。――違和感が過去の悪夢を彷彿とさせる。周りの通行人や車両の喧騒も聞こえない。周りを見渡して、やはり確信せざるを得なかった。同時に僕自身が立っている場所も把握した。デジタル時計が浮いていた場所だった。
「うそだろ。最悪⋯」
また、世界が止まった。あれからもう12年もたったというのにあの時の寂しさが込み上げてきて今にも泣きそうになる。思ったよりもあの時のショックはまだ心のどこかにあったようだ。それでも、理性が成長するには12年は充分な時間で、本能のままに泣くことはなく、僕はすべきことを探し始める―――
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