狼を憐れむ歌
椰子草 奈那史
狼を憐れむ歌
ダウンタウンから外れた安いアパートメントの窓に明かりが灯った。
俺は懐のH&Kの感触を確かめると、アパートメントへ向かって歩き出す。
俺の名はジャック・スピアーズ、しがない賞金稼ぎだ。
今俺が向かっているのは、連続強盗事件で指名手配中の「マッドブル・ゲイリー」こと、ゲイリー・コールマンの昔の女の部屋だ。
情報屋のサムのたれ込みによれば、コールマンは最近この女の部屋に出入りしているらしい。
俺は女の部屋のドアの前に立ちノックする。
反応はない。
もう一度ノックし、ドアに向かって叫ぶ。
「メリンダさん、州水道局のものです。今月の支払いの件でお話が……」
ドアの向こうで人の気配がした。
俺はドアの横の壁に背中をつけると、H&Kを抜いた。
「なによ。支払いなんてもう済ませて――」
ドアがわずかに開いた瞬間、俺はガウン姿の女を突き飛ばし部屋になだれ込んだ。
銃口を向けながら、リビング、ベッドルーム、バスルームと順番に確認していく。
女の他には部屋には誰もいなかった。
「なによアンタ、警察を呼ぶわよ!」
女――メリンダがわめく。
「あいにく俺は黙秘権とも弁護士とも無縁な男でね。それに、警察を呼んだら困るのはお前さんの方じゃないのか?」
俺の言葉に、メリンダは黙り込んだ。
「……いったい何の用よ?」
「いい子だ。ここにコールマンが出入りしてると聞いた。事実か?」
「今はいないわよ」
「次はいつ来る?」
「知らないわよ! 知ってたって言わないわ。アタシがあいつに殺されちゃう」
「言っておくが俺はボーイスカウトじゃない。礼儀正しくお話を聞く気はないぜ」
「な、何をする気なの?」
「もちろん、身体に聞くのさ」
メリンダが恐怖の表情を浮かべて後ずさる。化粧っ気もなく顔の端々に生活の疲れが見えるが、胸だけは大きい女だ。
俺はメリンダをベッドに突き飛ばし、ガウンを剥ぎ取る。
メリンダの白い身体が露わになった。
「お願い、やめて……」
俺は構わずにメリンダの敏感なところへ指を這わせる。
「いや、だめっ……そんな」
「さぁ、いつまで我慢できるかな?」
切なげな表情を浮かべたメリンダが懇願するように喘ぐ。
「ああ、やめてっ、そこは、ああ! だめっ」
だがメリンダを追い詰めるように俺の動きはさらに激しくなる。
「ああ、いやぁ、もう、それ以上されたら! アタシの、アタシの――」
そして、メリンダは限界を迎えた。
「アタシの脇をくすぐらないでぇぇぇ!」
狂ったように笑い続けるメリンダの脇を、俺はなおも責め続けた。
「お願い! 言うわ。言うから!」
その言葉に、俺はようやくメリンダを解放する。
放心したようにベッドに横たわるメリンダから離れ、俺はマルボロに火をつける。
「……アタシにこんな事して、あいつが黙っちゃいないわよ」
「ふっ、この程度で済んだことをカクヨムの規定に感謝するんだな。期待した読者には気の毒なことをしたが」
「これ以上のことをしてみなさいよ。アタシもアンタも消されるのよ!」
「その時は、続きは『なろう』ででもやるさ」
「この人でなし!」
俺は肩をすくめると、メリンダの肩にガウンをかけてやった。
「手荒なことをしてすまなかった。だが、お前さんも付き合う男は選んだほうがいいぜ。ヤツが来るときはここに電話を」
メリンダのガウンのポケットに紙片を差し込む。
「……アンタ、名前は?」
「ジャック・スピアーズ。しがない賞金稼ぎさ」
俺はメリンダの部屋を後にした。
このゴミ溜めみたいな街にしては、今夜はいい月だ。
俺とまた会いたければ、ケネスストリートの10番まで来てくれ。
それじゃ星を待ってるぜ。
to be continued
(※最後の部分まで含めてネタですので、間違って星を押さないでください)
狼を憐れむ歌 椰子草 奈那史 @yashikusa
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