3

 幾日も続く嵐のような雨に江戸の町は大混乱。

 雨天神社、陽愛神社のすぐ近くを流れる浅草川は氾濫寸前だった。


 江戸の町人は口々に、陽愛神社の神さんの祟りだと噂し始める。散々なことしといてよく言えたもんですよ。


 神さんたちは喧嘩ばっかりしてたが、別段に相手を憎んでいたわけじゃない。


――言うでしょ? 喧嘩するほど仲が良いってね。




 参拝する人もなく、荒れたままの陽愛神社に雨天は毎日のように見舞いに行った。


「また、寝てるのか? ぐうたらな奴だな」


「煩いわよ。毎日、来るのいい加減やめてよ……」


 日に日に陽愛は弱って雨天との口喧嘩もままならなくなってきた。


 人はこれも知らなかった。誰も参拝しなくなった神さんがどうなっちまうのか?


――祟るか消えか。


 人に祀られ願われ必要とされ存在する雨天にはなすすべがない。ただ、消えようとも祟ろうとも、人の罵詈雑言から陽愛を守ってやりたかった。

 

人の思いや願いは人が思っているよりも強く、神と言えど傷き病んでいくのだ。


――大雨を降らせれば、また陽愛のもとに参る人が押し寄せると思ったのだが


「今度は祟られたと、誰も来なくなるとは……」


 自分の社に帰りごろりと横になり独り呟いていると、一人の子供が参りにやって来た。


『神さん。雨を止めてください。毎日、お参りに来るから姉ちゃんを連れてかないでください!』


 どうやら、この雨を鎮めるのに生贄でも差し出すつもりなのだろうか。勝手なことだと寝返りをして無視を決めこもうとするが、雨天は子供の願いにあることを思いつき、飛び起きて子供に言葉をかけた。




 人なんてのは、ほとほと勝手な生きもんです。浅草川に土嚢を積む連中は、手の打ちようがない状況に馬鹿なことを言い出す始末。


――疫病神を祀っている陽愛神社を壊せ! 祟り神なぞ追い出してやる!


 声を上げて人々が陽愛神社に乗り込んで行くと陽愛神社の前には先ほど雨天神社に参っていた子供の姿があった。


「子供がこんなところで何してやがる? 危ないからさっさと家に帰れ!」


「今、雨天神社の神さんに言われたんだ! 雨を止めて欲しかったら陽愛神社に毎日お参りに行って、ちゃんと祀り直せって!」


 ですが、そんな子供の話なんて馬鹿な大人が信じるはずもなく、子供を押しのけて今にも陽愛神社を壊そうとしてたんですよ。


――本当に見てられないねぇ。


「ちょいと、お前さん達! いい加減にしなよ!」

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