2

 そんなある日のこと、また江戸に日照りが続いた。


 二人の神さんは小さな喧嘩はしょっちゅうだったが、天気に影響がでるような喧嘩はこの所していない。


 だから、この日照りもけして陽愛のせいではなかった。


「こう日照り続きじゃまた雨を降らせろと人が五月蝿くて昼寝ができなくなるな。陽愛に文句を言ってやろう」


 自分が人の願いを聴き雨を降らせればいいのだが、暇を持て余している雨天は隣の陽愛にいつもの様に難癖を付けに行く。


 社の中に入ると、いつもなら入ると同時に煩いほど聞こえてくる陽愛の声がない。


「なんだ、昼寝中か?」


 雨天は社の真ん中でうずくまるように寝ている陽愛に近づき覗き込む。


「なによ……あんたも、文句を言いに来たわけ?」


 よろよろと起き上がった陽愛の顔には黒いシミが点々と浮き出ている。雨天はその顔に驚いて言葉を失った。


「女性の部屋にづかづか上がってくんじゃないわよ。いつも言って……ゴホッゴホッ」


 黒いシミの浮き出た顔を隠しながら文句を返すが、その言葉も弱々しく虚勢なのが分かる。


「ふんっ。そんなところで寝てなどいるから、病にかかるのだ」


「そう……悪かったわね。雨天に伝染ったら大変だからさっさと帰って……」


 陽愛は苦しそうな声で突っぱねると、またうずくまるように横になりゴホゴホと嫌な咳を繰り返す。


 雨天は何も言わず、社の表に出て神社の周囲を見渡し、その惨状に絶句する。犬の糞や石が社にぶつけられたのか壁は傷だらけだ。雨天はその傷跡に触れて目を閉じる。


『日照りばかりもたらす疫病神!』


『どっか行っちまえ!』


 陽愛神社に参りにくる人は誰もかれも社に石や犬の糞を投げつけ陽愛に罵声を浴びせている様子が見えた。


 傷跡から離れた雨天の手はワナワナと震えて拳をつくると、凄まじい風が江戸の町に吹き荒れ、見る間に黒い雨雲が町を覆い凄まじい稲光が幾筋も江戸の町を襲った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る