23 協力要請


 そろそろお昼の時間になろうという時間になって、騎士ミュールが俺の部屋を訪ねて来た。

 お昼はどうするのかと聞かれて俺は少しばかり考えた。


(オリビアと食べるか? メルフィアのことを共有しておきたいし)


 また嫌な顔をされそうだが、報告しない方が後でグチグチ言われることになるだろう。

 この前もディアフローテにマウント取られたと言って、ストレス発散の相手にされたばかりだ。

 苦労を掛けるのは俺もなるべく避けたいのだが、残念ながら世の中というのは自分の都合よく動かないものである。

 避けられる危険があるのなら率先して避けて行くべきだろう。俺の胃や頭髪のためにも。


 そんなことを考えてから騎士ミュールに予定を告げようとしたが、ノックが俺の口を止めた。


「クリスティアーノ様、少しよろしいかしら?」


 ディアフローテの声だった。メルフィアのことで何か変化でもあったんだろうか?

 俺は騎士ミュールに合図をしてドアを開けてもらった。


 入ってきたのはディアフローテだけじゃなく、エリザベリィとファリスヒルテもいた。

 あいかわらず二人は美人だし、エリザベリィは俺を睨むように見ている。

 ふふん。P4で鍛えられた俺にとって、その程度の視線など蚊に刺されているようなものよ。

 良い子良い子と撫でてやっても良いが、振り払われて腕がもがれそうなのでやめておいてやろう。


「三人お揃いでどうしたんだ? メルフィアは?」

「まだ帰ってきてませんわ。その件も含めてクリスティアーノ様にお願いがありますの」

「お願い? 私にできることなら協力するのはかまわないが……」


 恩を売っておけば、誘拐関係の問題で譲歩を引き出すこともできるかもしれないしな。


「難しいことをお願いするつもりはありませんわ。少しの間、私たちと行動を共にしていただく。それだけですわ」

「行動を共にする? どういうことだ?」

「メルフィアが戻ってくるまで、なるべく単独で行動することを控えたいのです。二手に分けたいのですが見ての通り私たちは三人ですので、クリスティアーノ様に空いた枠を一つ埋めていただきたいのですわ」

「いや、三人と言っても使用人や部下がいるだろう? 彼女たちではダメなのか?」

「使用人や部下は連れていけない場所がありますから。そういう場所では一方が一人になってしまうでしょう?」


 使用人や部下を連れていけない場所ってヤバい響きなんだが、いったいどこへ行くつもりなんだ?

 そんな制限をされる場所なんて城か、国の重要施設くらいしか思い浮かばない。

 うちの領主館で言うなら密談部屋とか、機密区画とかだろうか。

 もっともそっちは使用人や部下だけじゃなく、女王候補だろうが領主だろうが関係者以外立ち入り禁止である。


「どこへ行くつもりか知らないが、私で役に立つのか? わかっていると思うが荒事に巻き込まれるのは困るぞ? それにこちらにも都合がある。あまり時間を取られるのも困る」

「時間の方はとりあえず今日の夜までお願いしますわ」


 夜までか……それならかまわないか。


「危険もありませんわ。クリスティアーノ様にはファリスヒルテとセイラーズ商会へ行ってもらいますから」

「セイラーズ商会? それなら確かに危ないことはないだろうが……それ、私が付き添う意味があるのか?」

「いちおうの保険としてですわ。メルフィアのことがありますからわずかでも油断をしたくないのです。お願いいたしますわ」

「まぁ、そこまで言うならセイラーズ商会に付き添うくらいかまわないが……」


 というか、セイラーズ商会に何をしに行くつもりだろうか? 俺は何も情報を与えるようなことはしていないはず。

 つまりディアフローテたちが独自に何か情報を手に入れたってことか?

 変なことにならなければ良いんだが……


 あとこれ、俺はなんにも悪くないよな? オリビアに知られてもムッチムッチされないよな? 嫌な予感しかしないわ。



 ■□

 □■



『クリス屋敷・廊下/ディアフローテ』



「……クリスティアーノ様は大丈夫かしらね」


 出かける準備をするというクリスティアーノ様の部屋を後にして自室へ戻る途中、先ほどの会話を思い出して私は呟いた。


「ディアフローテ様? 何の話ですの?」

「クリスティアーノ様はセイラーズ商会のアリシアさんとは仲が良いようですから、もしかしたら何か関わっているかも、と思い商会の話を出してみましたが、危険がないと言った私の言葉を当然のことのように受け入れていましたでしょう? メルフィアの件に商会が関わってる可能性などまったくないような様子でしたので、考えすぎだったかと思いましてね」

「そう言えば言っていましたね。危険がない、と言ったのを聞いた時は違和感を覚えましたが、そういう意味があったのですね」

「ええ。危険に飛び込ませるのですから、可能な限り危険の芽は潰しておきませんと」


 これはファリスヒルテのためだけというわけではなかった。

 セイラーズ商会で何かがあって私とエリザベリィの二人になってしまうより、ファリスヒルテにはしっかりと戻って来てもらい、三人のままの方が後々動きやすいからという思惑もあった。


 もちろんファリスヒルテの安全性を高めるという意味もあったが、それよりなにより、このまま行かせれば戻ってこないのではという不安というか予感がどうにも拭い切れず、必要以上に慎重になっていたからであった。


(こんなことではダメですわね。動かすからには確信をもって動かさなければいけませんわ)


 不安はある。けれど、しなければいけないという予感もあるのだ。

 自分が行くのが一番気が楽だが、ファリスヒルテに行ってもらうのがベストというのは確かだった。

 ここまでくれば受け入れるだけしかない。

 どんなことが起きようとも受け止めて突き進む。

 仮にメルフィア同様いなくなったとしても、すぐに探し出せば良いだけの話だ。

 都合の良い理屈ではあるが、そうと決めて実行するしかない。

 方針を決めたからにはその責任を持つ。そこから逃げ出すようなことはしない。

 きっと女王になれば、こういった決断をする機会がいくつも訪れることだろう。

 ここを避けるならば、私に女王候補としての資格はない。


「ファリスヒルテ、お願いしますわ」

「お任せくださいませ。行ってまいりますわ」





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