17 魔道具大好き、ラクシィ・ムーン
「あ、クリス様、良いところに」
そう言ったのは、生徒会長みたいな見た目の開発大好き娘だった。
本店の建物に入ってすぐのことである。
ラクシィ、いるじゃないか!?
俺が驚愕していると、腕を抱いてる女がふるふると震えている。
一嘘で二度おいしいってか? 腕の良い感触だけじゃもう許さないぞ!
「ラクシィさん、アリシア様との話は終わったのですか?」
「ううん、まだ。アリシア様にすぐに商品化できるものがないかって聞かれたから、工房に戻っていくつか試作品を取ってきたの」
「そうでしたか。クリスティアーノ様、いりますか?」
「いる!」
「ではどうぞ」
必要とされることはありがたいことだが、ちゃんと当人にも確認しような? 人というのは他人が勝手に譲渡したりするもんじゃないんだよ?
「ぜひともお相手して差し上げたかったのですが、アリシア様とラクシィさんが必要とされているのなら、お譲りする以外の選択肢を持ちえません。残念です」
白々しすぎる。アリシアの相手がラクシィだと知っていたのなら、最初からアリシアに引き渡すのは決定事項だろうが。
アリシアにラクシィにサテラ。セイラーズ商会本店は魔窟だ。さっさと用事を済ませてホームへ帰ろう。P4の能面みたいなプリティフェイスの方がいくらかマシである。
……なんで美人美少女たちとの関係を秤にかけて、マシとか言わなきゃいけないんだよ。
素直に一緒にいて嬉しい女性はいないのか? 何も知らなかった頃のサフィアローザよ、カムバーーック。
俺はラクシィに引きずられて、アリシアの部屋へと連れ込まれた。
高級サロンの一角を切り取ったようなアリシアの仕事部屋に入ると、アリシアは待っていたかのように俺を迎えた。
「いらっしゃいませ、クリスティアーノ様。ちょうど良いところにいらっしゃいましたね」
「私を実験台にできるからか?」
「いいえ。お昼なのでおいしいお茶が飲みたいと思っていましたの。クリスティアーノ様はお茶を入れるのはお上手でしょう?」
入れるの
他にもたくさんあるだろ。自分じゃすぐには思いつかないけどね!
まぁ今は、この
俺がお茶を淹れている間に、サンドイッチをメインとして、ローストビーフやチーズなど軽く摘まめる食べ物が運ばれてきてテーブルに並べられた。
「食事をしながら話を進めことにしましょう。ラクシィさん、始めてくださる?」
「どれからが良いかな……うん、これに決めた。クリス様、おねがい」
試作品の魔道具を当たり前のように渡される。
「これ、ちゃんとテストしてあるんだろうな?」
「もちろん」
「自分で?」
「ううん。人形で」
「………」
人形ってあれだろ。とあるイケメン王子をデフォルメしたぬいぐるみのことだろ。名前は確か……
「くりすさま
「それはこの間ダメにしちゃったよ。今はくりすさま
「おい、この間っていつだよ!? 200も数字が飛んでるじゃないか!?」
1801だったのが半年前だから、そんな短期間で200体もイケメン王子人形を潰したのか!?
しかもこの間まで王都にいたんだよな? それじゃあもっと短いってことじゃないか。
まぁこれまでの開発人生で二千体潰しているなら、たかが200体くらい……たかがじゃねー。くりすさまをもっと労われ。
「大丈夫。これまでのくりすさまの魂は、ちゃんと今のくりすさまに宿ってる」
それ、ただのリサイクルだろ。使える部分を再利用したってだけだろ。
知っていると思うが、俺はリサイクル不可だからな。……知ってるよな?
「これはなんの魔道具だ?」
渡された魔道具は、手の平サイズの黒い正立方体の箱と水晶球を組み合わせたものであり、箱の六面全てが円形に切り取られていて、そこから水晶球の面がはみ出ている。
一見しただけでは使い方どころか持ち方すらわからなかった。
「それは遠くが見えるようになる魔道具」
「ほお……」
望遠鏡か。名前を付けるなら遠見の魔道具ってところだな。
普通に街で暮らす人には不要な物だが、街から街へ移動する商人などは持っていれば便利な時もあるだろう。
それに騎士団の装備としても売れるかもしれないな。
俺は使い道、販売先なんかを考えながら、魔道具の一面を覗いてみる。
魔道具なので、魔力を流さなければ発動しないだろうが……
「あ、目が潰れちゃう」
うおおい! 俺は慌ててててて、魔道具からから目を離した。
どういうことだよ!? 怖すぎるだろ!? 慌てすぎて言語機能がバグったわ!
「あまり目に近づけちゃダメ。『気』の弱い男性だと目に傷がついちゃう。ぐぅ一個分くらい離せば大丈夫」
「そ、そうか。このくらいで大丈夫か?」
ラクシィが頷いたので、ちょっとビビりつつ魔力を流してみる。
水晶球がぼんやり光り、水晶球の中に映っている部屋の壁が目の前で見ているくらいに大きくなった。
さっきのこともあったので、おっかなびっくりラクシィの方へ向けてみる。とくに問題ないようだ。
さすがに近すぎるせいで、ラクシィの目だけが大写しになっている。
まつ毛の一本一本、瞳の虹彩まではっきりと見える。
……あれ、消えた? と、思ったが、ラクシィが動いて場所をずれたようだ。
「……あんまり人の顔をジッと見たらダメ」
ラクシィを魔道具を通さず見ると、なんだか照れてる様子だ。
俺は彼女のそんな姿を見て調子に乗った。男の子なので。
逃げるラクシィを魔道具で追いかけて捉え続ける。
いいねぇ、良い表情だよぉ、なんて気分はカメラマンである。
その対価は脇を抉るように放たれた蹴りだった。
「うぐぉ……やりすぎだろ……」
「魔道具で人の嫌がることしたらダメ」
ごもっとも。反省。
「でもこれ、六面の意味あるか?」
「面が向いている方向の景色を全部取り込んでいるから、見たい方向が見えるようになってる。大きさもある程度意思で調整できるよ」
「ほぉ……」
つまり正面を向いたまま他の方向も見えるということか。
とりあえず右面の先にいるアリシアを意識してみると、水晶球の中にアリシアの姿が映った。
顔の一部しか映っていなかったのを、少し小さくなるように意識してみると、アリシアの上半身が見えるようになった。
「これはこれは……」
裸眼で見るのとは、やっぱりちょっと違うな。
顔を見て、少しばかり視線を下へとずらしたりして。
うむうむ。これはイケメン王子も大胆になってしまうよ。男の子なので。
その対価は側頭部に突き刺さった扇子だった。
「学習できない頭など必要ないのではなくて?」
「~~~~」
へんじができない。しかばねになりそうだ。
「販売には少し工夫が必要そうですわね。貴族、騎士団、商人辺りに営業をかけて……。ラクシィ、目を傷つけるという部分は改善できるかしら?」
「できるよ。でも少し時間が欲しいかな」
「かまいませんわ。それでは商品化の候補にしましょう。次をお願いしますわ」
アリシアとラクシィは慣れたようにやり取りを交わして、テキパキと話をまとめた。
「クリス様、次はこれね」
うずくまる俺などお構いなしに、ラクシィは別の魔道具をぐいぐい押し付けてきた。
……自業自得かもしれないけど、クリスさま初号機のことをもう少し気にかけてもらえないだろうか?
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