16 クリスくんのおつかい セイラーズ商会へ
「何を言っているのかしら? 確認しに行くのはクリスくんよ?」
領主館に来て、オリビアにいつアリシアに会いに行くのかと尋ねたら、こんな答えが返ってきた。
「え? 私が行くのか?」
俺が驚いて聞き返すと、オリビアさんの呆れ顔をいただきました。
呆れから呆れのコンボが発生して、俺の株は下降を始めました。
「貴方は知らないかもしれないけどね、アリシアさんは私でも驚くほど多忙なの。私でもアリシアさんとは気軽にアポイントを取れないくらいよ。今からアポを取っても会うのは数日後になってしまうわね」
「ほぉ、そうなのか。忙しそうなアリシアというのは見たことがないな」
「驚きの発言だけど、まぁ良いわ。そういうわけだから、な・ぜ・か、アリシアさんに気に入られているクリスくんが行くのよ。な・ぜ・か、気に入られてるクリスくんが」
「二回も言うほどの不思議か。ほら、もしかしたらアリシアが私を好いているとか?」
「ぷっ」
噴き出してから、身をよじる様にして顔を隠し、痙攣したように上半身を震わすオリビア。
もう大爆笑ですわ。良いギャグが見つかりましたね。今度P4に試してみようかなあ!
「そういうわけだから、アリシアさんに好かれているらしいクリスくんが、例のことについて確認してきて……ぷっ」
「……それはもう良いから。けど、私が行くのは良いが、アリシアの答え次第では色々話さないといけないことも出てくるんじゃないか?」
誘拐が事実となれば、アリシアが裁かれ、セイラーズ商会が潰れることは止められない。領地の混乱を避けるために便宜を図るとか、司法取引をするというようなことはありえないのである。
けど、そうなれば領地が大混乱に陥るのはわかっている。わかっているのにその影響を可能な限り小さいものにしようと考えないのは、底抜けのどアホだろう。
その調整のために色々話すことがあるんじゃないかと思って言ったのだが、はいまたオリビアさんの呆れ顔
トリプルコンボでスキル『大暴落』が発生。俺の信頼はストップ安です。
「あのね、クリスくん? 誘拐をしてないかと聞かれて、自分は誘拐をしてますと答える誘拐犯がいると思ってるの? 確実な証拠もないのに」
それは……………………いないな。
「それじゃ何のための確認なんだ?」
「状況を動かすためよ。セイラーズ商会が関わっていれば何か動きを見せるかもしれないし、関わっていなければ協力を頼めるでしょう?」
「おお、そうか。それは良いな」
「関わっていなければ、ね」
「おお……」
なんだろう、まるでセイラーズ商会が関わっていることを、確信しているかのような言い方だ。
信頼株が底値に落ちた俺に、調子に乗るなと釘を刺しただけという感じもしなくもないが、オリビアの真意や如何に?
「それじゃあ行ってくるが、何か注意事項はあるか?」
「おかしなことを言って口封じされないでね」
楽しそうに恐ろしいことを言うなよ。行きたくなくなったじゃないか。
■□
□■
領主館を叩き出された俺は馬車を走らせ、知る人ぞ知るセイラーズ商会の本店へとやってきた。
目の前には刑務所の外壁みたいな高い壁が右から左へと長く伸びているが、この壁の向こうがセイラーズ商会の本店である。
この場所へは大通りにある一本の細い路地に入り、決まったルートを通らなければ辿り着かないようになっている。
知らない人がその路地に入っても、いつのまにか大通りに戻っているようなギミックが施されており、選ばれた者だけが本店を訪れることができるのである。
そのセイラーズ商会の本店は商品を売る店ではなく、大口の商談をしたり契約を交わしたりする場所だった。
建物を見ただけではセイラーズ商会の店だとはわからないようになっていて、ここへ来られるのはアリシアに認められた商人だけなのだ。
アリシアはこの街にいる時は基本的に自宅かこの本店にいて、商会のトップ同士の大きな商談を交わしたり、各部門長へと指示を出したりしているらしい。
ちなみに領主代理代理であるオリビアはここに来たことがない。
それは当然オリビアがアリシアに認められていないからというわけではなく、身分的にオリビアがアリシアに来いと言う方だからだ。
アリシアならオリビア相手でも強気に出ることはできるだろうが、彼女は弁えるということを知る女性である。
オリビアを怒らせて生きにくくするくらいなら、召喚要請くらい簡単に応じてみせるだろう。
さすがに、今すぐ来いというような都合を無視した命令だと、拒否することもあるようだが。
ちなみにアリシアは俺の召喚要請に応じたことがない。
身分的には俺の方がオリビアより上なのに。とっても不思議だね。
俺が世界の謎に首を傾げていると、壁の一部が扉のように開き、女性が一人出てきた。
報告者、じゃなくて、アリシアが認めた部下の一人である、サテラ・レクーテワだ。
白いセーラー服が眩しいね。サテラさんは顔が大人っぽいからコスプレ感たっぷりだけど。
「クリスティアーノ様、いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「アリシアと話がしたいんだけど、いる?」
「おりますよ。ただ、今はお客様がいらっしゃているので少々お待ちいただくことになると思います」
「そうなのか。長くなりそうかな?」
「どうでしょうか、いつもの商談とは違いますのでお答えしかねますね。お相手はインバーテラ領の領主ディアフローテ・ナイトレイク様ですので」
「………」
なんでディアフローテがセイラーズ商会に!? オリビアが知ったら、ムッチがビッシバッシされることになるじゃないか!
……な~んてことは思わない。目の前にいるこの秘書風女は大嘘吐きで、嘘を聞いた俺の慌てる姿が大好物という変態女なのである。
マジで?と聞き返したくなるような発言はほとんどが嘘で、何十回と騙されてきた俺はもう慌てたりしないのだ。俺は学習する男なのである。
いや、本当はちょっとだけビクッとしてしまったりしたけど、ちょっとなので俺的にはセーフだ。
「バレてしまいましたか。つまらないですね」
「私で遊ぼうとするな。もう騙されることはないから他のオモチャを見つけるんだな」
というか、ディアフローテの名前を出すと俺が慌てることをなんで知っているんだろうか? いったいどれだけの情報を手に入れているのやら。
その情報網をぜひ俺のために活用してもらわねばな。
「やはり
「まずは他人を騙そうとするな。あとそんな学習はしなくて良いから」
「わかりました。本当のことを申しますと、今来ているのはラクシィさんです」
「え、ラクシィが来てるのか?」
開発大好きラクシィは近くに工房を持っていて、自宅も兼ねているため、この街にいる間は9割5分くらいそこに籠っている。
残りの5分は魔道具の商品化やアリシアから開発の要望を聞いたりするために、この本店を訪れている時間だった。
そんでもって商品化や開発に必要になってくるのが、安全性のテストや最終調整のための試用確認をする
俺だって領地の繁栄のために協力するのは
「………」
出直そうかな~なんて、しょうもないことを考えていると、実に楽しげな変態女の顔が目に映った。
俺は歯ぎしりをギリギリ鳴らしたい気持ちを我慢して、なんとか騙されてなんかいないよ風な装いができないか思案した。
……無理だった。
「くっ……嘘か? 嘘なのか!?」
「さ、中へどうぞ。アリシア様の要件が終わるまで私がお相手させていただきますわ」
詰め寄る俺など、そよ風みたいなものらしい。ひとを騙して喜びいっぱいのサテラは俺の腕を抱くと、抵抗する俺を建物の中へ引きずっていった。
俺が抵抗したのは嘘に対する抗議のためで、もちろん腕に当たる感触を楽しんでいたわけじゃない。ぽよん。
セイラーズ商会のアリシア周りはこんな奴ばかりだ。
リリィが染まってしまう前にできるだけ早めに引き取らないといけないな!
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