5 禁呪の代償?
夜中。
ガチャリと音が鳴り、ドアが開く。
部屋にいたサフィアローザはびくりと震えてドアの方を見た。
だが俺の姿が見えなかったせいで警戒したような顔になった。
「……誰?」
たぶん俺だと気づいているだろうが、いちおう警戒して俺の名前を口に出さないのはさすがサフィアローザといったところか。
「私だ、待たせたな」
俺は魔法を解いて姿を現した。
サフィアローザは警戒を解くと、笑みを浮かべて近づいてくる。
「今のはクリスの魔法? クリスらしい姑息な魔法ね」
「……なんて言い草だ。ふつうに褒めてくれ」
「姿が消えるだけの魔法なんてあまり役に立たないじゃない。気配でいることはすぐ気づかれるわ」
「知ってるよ。今回は俺がサフィアローザの部屋に来るところを見られなければ良いだけだから良いんだよ」
「……俺?」
「気にするな。王子の「私」はお休みだ」
「……? それでこんな時間に何の用なの? 男がこんな時間に女性の部屋に来るなんて非常識じゃない」
逆だろ!と義明的にはつっこみたいところだが、これがこの世界の認識である。
男に襲われる、なんて発想がないのである。
むしろサフィアローザが欲望に忠実な女性だったら、今頃俺は手籠めにされてベッドで朝日を見ることになっていただろう。
もちろん俺の場合はヤラレっぱなし、なんてことにはならないがな。
「………」
そんなわけで全く警戒せずに笑みすら浮かべていたサフィアローザ。俺は無言でそんな彼女に近づいていく。
「……クリス?」
何かを察したのか、サフィアローザの足が後ろに下がろうとするが、俺の進む速度の方が速い。
すぐに距離がなくなり、俺は正面からサフィアローザの耳元に口を寄せた。
「サフィアローザ、発情してるだろう?」
「!?」
びくっと体を震わせてから硬直したサフィアローザ。
「な、なにを……言い出すの? いきなり……」
ごまかそうとするように声を出すが、そんなに震えていては意味がない。
そもそも俺は何の根拠もなくあんなことを言ったわけじゃない。というか根拠もなくあんな少女コミックの俺様系主人公みたいなセリフを口にしていたら頭おかしいわな。
「昼間、尻の位置を直す振りして俺の背中にしきりに擦り付けてただろう?」
その瞬間もうほとんど触れているといっていいくらい近くにある彼女の体が、カッと熱を発したような感じがした。
「ち、違うわ! そんなこと、私は……」
「嘘を言うな。体が熱くなるんだろう? 我慢するのがつらいんだろう?」
「ぁ……」
俺の体にサフィアローザの柔らかい部分が触れた。
俺は一歩も動いてない。サフィアローザが無意識に前に出たのだ。
サフィアローザはぎゅっと体に力を入れると、俺の体を少し押し離して俺を見上げた。
「これはなんなの? 貴方が私に何かしたの?」
頬が上気して、目が潤んでいる。
怒っているような顔をしているが、その表情は今すぐ唇に吸い付きたいと思ってしまうくらい色っぽい。
強かろうが力関係が逆転してようが、俺にとっては普通にかわいい女性でしかなかった。
「まぁ俺が原因といえば原因なんだが、俺がやったのかって言われると否定しておきたいっていうのが正直なところだな」
「どういうこと? 原因だけどやったわけじゃない?」
「いや、やったかどうかと問われるとやったって話になる。簡単に言ってしまうとな、禁呪をしたからなんだ」
「それは、禁呪の副作用ということ?」
「そうじゃない。もし禁呪の副作用だったらディーアモーネもなってるだろうし、たぶん強制力がかかって我慢とかできないだろうよ」
今日見た感じだとディーアモーネは
「それならなんなの? 説明して!」
「わかってる。ちゃんと説明するから落ち着け。声が大きい」
「ぁ……ごめんなさい」
「いや、まぁ、落ち着いてくれたのならいい。それでだ、さっきも言ったが原因は禁呪をしたことだ。禁呪そのものじゃなくて禁呪の時にした行為が原因なんだ」
「禁呪をしたときにした行為ってキス、よね?」
「それと胸に触ったのもそうだ」
俺は話をまとめるために一度言葉を止め、サフィアローザにとってちょお恥ずかしい事実を告げた。
「要約するとだな、キスと胸に触られる気持ち良さを覚えたせいで、発情してるんだ」
「な……」
サフィアローザの顔がさっき以上に真っ赤に染まる。
上流生まれの純粋培養育ちだ。貴族教育で知識はあるが、貞操観念が固いので経験はないのである。
そんな知識という火薬の詰まった無垢な体に、実感という火がついたことで爆発してしまっている状態というわけだった。
さらに彼女たちは自分で発散するという知識というか方法を持っておらず、波が治まるのをただ我慢して待つことしかできなかったのだ。
俺が今日サフィアローザの部屋に来たのはそれを
「クリス……何をするつもり?」
俺が頬に手を当てて顎を少し上げさせると、サフィアローザの視線が声と同じように揺れる。
されるがままになっているのはこれからすることに気づいていないからか、気づいていて受け入れてくれているからか。
どっちにしろ禁呪で強制してるわけじゃないので嫌なら力ずくで突き飛ばすだろう。簡単にそうできる力が彼女にはあるのだから。
「心配しなくてもいい。俺に任せておけば大丈夫だから」
ゆっくりと顔を寄せるが、サフィアローザが俺を突き飛ばすことも、顔を背けることもなかった。
逆にサフィアローザの口が少し開いたのは、禁呪をした時の経験によるものだろうか。
俺はそれを彼女の了承と取ると、そのままサフィアローザの口をふさいだ。
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□■
翌日の昼、マリーアネットと会ったときに、冷めた目で睨まれながら嫌味を言われた。
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