4 アクアリウム王国という国
「それで、次の獲物は誰なの?」
獲物ゆーな。
ディーアモーネの質問に心の中でつっこんでから、俺は答えた。
「理想を言えば2位、3位の二人に認めさせられればいいが……」
「アーリアの姉妹ね。あの二人は仲が良いからある意味ディーアモーネより難しい相手よね」
サフィアローザの言葉を俺は心の中で頷いておく。
女性の方が圧倒的に強いこの世界では、1対2になった時点でほぼ詰む。
まぁ1対1の状態でもすでに綱渡りみたいなものなのだから、それが対2になれば綱から落っこちることになるだろうということは言うまでもあるまい。
『アクアリウム王国の政治』
ここで少しアクアレイク王国の政治と女王候補について少し説明を入れておくことにしよう。
ここアクアレイク王国が女性中心の女王国家ということはすでにわかってるだろうが、その詳細はおそらく誰もが想像できるであろう単純な王政ではないと言えるだろう。
なぜならこの国には女王が7人存在するのだ。
第1位の女王から第7位までの女王がいて、彼女たち7人の女王による合議制によって国が運営されているのである。
7人の女王と一まとめに言ったが、その頭についているナンバーにはもちろん意味があり、数字が小さいほど発言力・決定権を有している。
単純に数字で表すと、1位が20、2位が6、3位が5・・・7位が1、という力関係になっている。
同じ女王と言っても1位の女王が圧倒的に力を持っているのだ。
2位以下の女王がまとまれば1位の決定を覆すことも可能であり、ちゃんと1位の独裁を許さない体制になっているのである。
では1位と2位が組んだらどんな決定も覆せないのではないかという不安を覚えなくもないだろうが、それはこの国の女王をバカにした捻くれ者の考え方と言えるだろう。
女王にとって国とは自らの顔であり・体であり・内臓でもある。つまり自分そのものなのだ。
国を傾ける・乱すということは、自分の顔に自ら泥を塗り・体に傷をつけ・内臓を腐らせるようなものである。
気高く、強く、美しくあろうとするこの国の女たちのトップ達が、自分の体に醜い傷をつけることはない。
そう断言できてしまうほど女王たちは国に対して清廉であり、苛烈だった。
『女王候補について』
次に女王候補についてだが、この国の女王候補とは王族の血を持ち、国内に領地を持つ王侯貴族の息女のことを言う。
王族の血を持っていても領地を持たない家は候補になれないし、領地を与えられていても王族の血筋ではなければ当然なれないのである。
大前提が王族の血筋であることなので養子なども除外される。
言うまでもないが、男は全部除外だ。
それと女王候補の頭につけられた順位についてだが、これに女王の順位のような意味はない。第1位イコール第一候補ではないのである。
女王候補の順位はシンプルに第1位女王の娘・ディーアモーネが第1位、第2位女王の娘姉妹・ファラアーリア、クレアアーリア、第3位女王の娘・マリーアネット・・・と続き、
女王の娘が終われば第1位女王の姉妹の娘・第2位女王の姉妹の娘・・・と続く。
その後は領地ごとに格があり、格の高いところから順位を振られているだけなのである。
あくまでも横一線。候補それぞれに女王となる資格を与えられているのだ。
ちなみにディーアモーネ・マリーアネット・サフィアローザの名前に似た部分があるのは気づいているだろうか。
これは当然偶然そうなったわけではなく、女王の娘の名づけには法則性を持たせるという慣習によるものだ。
彼女たちは女王を目指して争う関係だが、共通性を持たせることによって少しでも仲良くあれば良い、という願いがその慣習には込められてるとかいないとか。
実際にそれに意味や効果があるかわからないが、現在の女王たちの仲は悪くなかった。
まぁご存じの通り候補の方はそこそこ悪かったりするのだが。
「ティファアローザはどうなの? 引き込めないの?」
マリーアネットの声に意識を引っぱられて俺は話に戻った。
ティファアローザ。名前から想像できるだろうが、サフィアローザの妹だ。
まだ14歳で去年までほとんど領地から出てきていないはずだ。
サフィアローザが話題にすることもなかったのであまり情報もなかった。
姉妹仲が悪いといった噂を聞くことはなかった(誰と誰の仲が悪い、といった噂は広がりやすい)ので、姉妹仲は良好なのだろうとは思う。
「かわいい妹をクリスの毒牙の前に差し出せと? マリーアネットはひどいことを言うのね」
言いながらサフィアローザが「ふふふ」と笑う。
笑いながらひどいと言う。感情がかみ合ってなくてなんか怖い。
「ちょ、ちょっと言ってみただけじゃない。クリスの毒牙の前に差し出せとは言ってないわ」
「そう? それなら良かったわ」
あの強気なマリーアネットをびびらせるとは……今後はサフィアローザを怒らせないように気をつけよう。
それにしても……さっきから毒牙毒牙ってひどくないか?
無理やり胸触ってキスして禁呪を刻んだだけじゃないか。
うん、ひどいね。俺がね。
「とりあえず今のところ14歳以下の子に禁呪を使うつもりはないよ」
この国の成人は15歳である。
この世界には未成年どうこうという条例も法律もないので罰せられたりということはないが、やはり義明の感覚では子供にそういうことをするのは忌避感があるのだった。
まぁ男は12歳くらいに結婚させられたりするし、そのくらいの年齢のかわいい男の子好きの女性も少なくなかったりする。男の子に性的な悪戯をして悶えさせて楽しんでいる、なんて話も結構な数が噂として聞こえていた。
ほんっとこの国の男って扱いがひどい。まぁそう思うのも義明の感覚があるゆえだが。
「私には使ったじゃない#」
「……私も子供だったからセーフだ」
マリーアネットに使ったときは仕返し的な意味の他に、禁呪の実験的な目的もあったのだ。
キスに関しては罪悪感があるが胸に触ったことは何とも思ってない。女児の胸なんて腕や背中に触れるのと変わらないだろう。
少なくとも義明には女子児童の体に触れて喜びを覚える性癖はなかった。
それに、あの後マリーアネットがあんな風になってしまうなんて思いもしなかったし……
「とりあえず当面は情報収集をしようと思う。ターゲットを決めるのもその後かな」
「私たちはどうする?」
「ディーアモーネたちは今まで通り女王になるために動いてくれればいい。行動するときは協力を頼むかもしれないが、まず第一に変化に気が付かれないよう気を付けることが最優先だ」
「まどろっこしいが私はクリスに敗北した身だ。従おう」
「私は今まで通りね」
「私も問題ないわ」
最後にサフィアローザが同意を表して体を揺らした。ぽよよん。
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□■
話が終わって解散となり、俺はやっと人間椅子から解放された。
立ち上がって固まった体を解すと、サフィアローザに歩み寄る。
彼女の耳に口を寄せると息を吹き込むように囁いた。
「サフィアローザ、今日の夜中に部屋へ行くから待っていろ」
「!!」
びくりと震えたサフィアローザの返事を待たずに俺は彼女から離れ、中庭を後にした。
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